>>(上)より続く

 部長と担当役員は、次第に元気を失って行く。大石は密かに喜んだ。いよいよ何かが起きる。そんな直感がした。確かに、社長は決断をした。しかし、それは一段と理解ができないものだった。

 若き部長が関連会社の役員になる、というのだ。そして、担当役員が外資系にいたときの部下がまた、新たに入社するという。しかも、大石よりも数歳若い。挙げ句に、わずか数週間で部長となる。60人を率いるのだ。

 大石は部長になれなかった。

 社長は、さらにハンティングを繰り返した。「タレント崩れ」の男性を役員にしたのだ。担当する部署はなく、メディアに登場することが仕事なのだという。「無責任にしゃべりまくる広告塔」と、社内では茶化される。

社長を中心とした“お友達経営”
長く勤めても決して報われない

 今、ベンチャー企業の経営者の中では世代交代が進んでいる。この40代の社長はここ数年、注目の的となっている。新卒を対象とした会社説明会はショーと化す。社長や役員たちが俳優のように、舞台上で笑顔を振りまく。

 大石は退職した社員らと、時折会うようになった。辞めた社員たちは、大石にこんなことをつぶやく。

「あの役員たちは、社員のことなんて考えていないよ。年収3000万~4000万をもらっているんだよ。要は、社長を中心とした“お友達内閣”なんだよ。社長はいざとなれば、会社を売りとばせば何十億という金が入って来ると計算済み。すでに上場させたから、数十億の金を握っている。社員たちは、役員どもがいい生活をするための土台要員。みんな、そのことに気がつかない。ベンチャーに長くいる奴って、バカだとつくづく思うよ」

 大石は、今度こそ辞めようと心の中で決めている。