携帯電話の料金体系は
なぜ複雑なのか

 心やさしいエコノミストとしての顔は、本書のいろいろなところで覗き見ることができます。

「経済格差」についての第7章で、著者は最も役に立つ経済学のキーワードとして「比較優位」を挙げ、人の仕事能力を「能力が高く、自己評価も高い“スター”」「能力が低く、自己評価も低い“縁の下の力持ち”など4パターンにわけて、比較優位に基づく分業の効果を解説していきます。

 その最後で著者は「本当に低い能力しかなくても、人はたいていの仕事をやりながら覚え、何度も繰り返しおこなうことで能力を高めていくものです」と自己評価の低い“縁の下の力持ち”に熱いエールを送る一方、「仕事の上で本当に使えないのは、能力が低い人ではなく、自分の能力を過信している人」と鼻持ちならない“自信過剰人間”をばっさり切って捨てるのです。

 ただし、吉本氏は“過保護”な著者ではありません。経済の仕組みを理解し、損得を考え、「賢い生活者」になる努力をしてください、と読者に注文をつけることも忘れません。

「携帯電話の料金」について分析した第4章では、複雑な料金体系によって「利用者が料金プランを変更する際の取引コストが高くなっている」とし、このことが価格差別を可能にして、「携帯電話会社の利益を高めている」と指摘。さらにこう言葉をつなぎます。

 複雑な料金体系を用意することで価格差別をおこなおうとする企業は、たいていの場合、消費者の取引コストのうち情報コストを意図的に高めようとします。その姿勢が端的にあらわれるのが、広告やパンフレットです。図に、架空の広告の例を載せましたが、「安い」とか「ゼロ円」などの長所ばかりが強調されて、本当に重要な情報はとても小さく書かれています。
(中略)
こういった広告を出す企業は、大切な情報をできるだけ読みにくくすることで、消費者の情報コストを高めているのです。知識や判断力が高い人であっても、忙しいから面倒な文章を読む時間を節約したいと思っているような人には、できるだけ高い料金(価格)を支払ってもらいたいのです。

 広告やパンフレットは、あなたが賢い消費者であるか、賢くない消費者であるかを、企業側が見定めるために用意された「消費者能力テスト」であると意識すれば、広告やパンフレットの読み方も変わってくるでしょう。注意深く読まない消費者は、割高な料金や価格を支払うことになりやすいという意味で、損をする危険性が高いのです。(123~125ページ)