「みんなおれをバカにしやがって」
と思っていた20代

「みんなが自分をバカにしている」<br />という勘違い岸見一郎(きしみ・いちろう)
哲学者。1956年京都生まれ。京都在住。高校生の頃から哲学を志し、大学進学後は先生の自宅にたびたび押しかけては議論をふっかける。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学。専門の哲学(西洋古代哲学、特にプラトン哲学)と並行して、1989年からアドラー心理学を研究。精力的にアドラー心理学や古代哲学の執筆・講演活動、そして精神科医院などで多くの“青年”のカウンセリングを行う。日本アドラー心理学会認定カウンセラー・顧問。訳書にアルフレッド・アドラーの『個人心理学講義』(アルテ)、『人はなぜ神経症になるのか』(アルテ)、著書に『嫌われる勇気』(古賀史健氏との共著、ダイヤモンド社)、『アドラー心理学入門』『アドラー心理学実践入門』(以上、ベストセラーズ)』、『アドラー 人生を生き抜く心理学』(日本放送出版協会)などがある。

岸見 しっかり読んでくださっているんですね。

片桐 なかでも「わたしには能力がある」と信じるのって、すごくいいなと思います。

岸見 アドラーは、「誰でも何でも成し遂げられる」と説いていました。この主張は彼がアメリカに活動拠点を移したときに、「そんなことないだろう」とかなり叩かれたそうなんです。でも、人が伸び悩んだり限界にぶつかったりするのは、遺伝や環境以上に、自ら自分に制限を課すことが問題なのだという考え方を、アドラーは曲げませんでした。

片桐 絶対そうですよね。いやー20代半ばの、イライラモヤモヤしていた頃の自分に読ませたいと思う箇所ばかりですよ。

古賀 えっ? 片桐さんの20代って、この本に出てくる青年みたいな性格だったんですか?

片桐 まさに。本には「競争や勝ち負けを意識し続けると、他者全般、ひいては世界を『敵』とみなすようになる」とありますよね。まさにそんな感じで、「チクショー、みんなおれをバカにしやがって」となぜかいつも思っていました(笑)。その頃、相方(ラーメンズ・小林賢太郎)にもよく言われましたよ。「ひどい顔してるけど、大丈夫? 誰もお前のことなんか見てないよ」って。いや、じっさい誰からも攻撃されてないんです(笑)。

岸見『嫌われる勇気』に出てくる、「お前の顔を気にしているのはお前だけ」ということですね。

片桐 そうなんですよ。まわりが敵なんじゃなくて、自分が「おれは何なんだろう」「誰に必要とされてるんだろう」と悶々としてるのが問題なんですよね。

古賀 そう思ってたのは、お笑いを始めた頃のことですか?

片桐 そうですね。就職もしないでお笑いの道でいこうとしたから、大学を出た瞬間に肩書が何もなくなったんです。まあ、不安ですよね。警備員のアルバイトをしながら、昼間は絵を描く毎日。でも、その絵だってどこかコンテストに出す予定があるわけじゃないし。で、小さなお笑いのライブとかに出ても、全然ウケない。ウケないコンビって、ほんとあの世界ではゴミ扱いですから。