新型インフルエンザが北半球に舞い戻り猛威を振るい始める中、製薬会社と並び投資家から注目を集める銘柄がある。3M(スリーエム)だ。理由は、マスクである。

 同社の医療用マスクは、今春のメキシコでの新型インフルエンザ流行の際にも売れに売れた。他社の医療用マスクに比べてぴたりと装着でき、サイズもいろいろそろっているからとされる。地元で製造していたことも、売れ行き増につながったようだ。

 さらに同社の「95N」型マスクは、マスクを超えて人工呼吸装置とも呼ばれる超高性能製品で、空気中の細かな塵やくしゃみの飛沫を防ぐのに効果的だとされ、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)の推薦商品のひとつになっている。

 しかも価格は、10個入りで15ドル前後と安価。インフルエンザ防止にマスクがどの程度効果的なのかについては専門家の意見が分かれるところだが、不安でいてもたってもいられない消費者には、買い求めずにはいられない製品となっているようだ。

 3Mは、新型インフルエンザの影響で、2009年第2四半期には健康関連製品の売り上げを2.2%伸ばして、市場予想を上回る利益と売上高をあげた。今秋は、インフルエンザの即席検査製品なども加えて、さらに売り上げを伸ばすものと見られている。同社は2009年初頭から株価が上向きに転じた数少ない企業のひとつで、アメリカ産業界復活の期待を担う存在だ。

 安い材料を用いてユニークな製品をつくる。これは、3Mの歴史そのものと言ってもいいだろう。3Mでよく知られるのは、マスキング・テープと付箋紙のポスト・イットの開発話だ。

 マスキング・テープは1920年代半ば、当時主力製品だった紙ヤスリの開発者が自動車修理工場を訪れたことがきっかけとなった。作業員が、車体の2色の塗り分けが難しいとぼやいていたのを聞いて、紙に粘着材を塗ったマスキング・テープを思いついたのだ。

 ポストイットは1960年代末、3Mの研究者が開発した粘着性の低い糊から生まれた。だが、これがスムーズに人気製品に化けたわけではない。研究者はこの糊が何か製品に使えないものかと必死で社内を説いて回ったが、何年ものあいだ見向きもされなかった。

 社員のひとり、アート・フライが賛美歌の付箋紙に使うと便利だと思いついたのは、6年後のこと。製品化されたのはさらに先の1977年だった。それでもすぐには売れなかった。あまりに発想が奇抜すぎて、見たことも使ったこともない消費者にはそれが何だか分からなかったのだろう。1年後になって3Mは田舎のアイダホ州で大型キャンペーンを展開して試供品を配って回り、これが全米人気に火をつけた。