「社内に同性愛者のコミュニティがある」

 こんな話を聞いたら、耳を疑う会社員も多いだろう。しかし、それを奇異に感じるのであれば、あなたは今や「時代遅れのサラリーマン」と言われても仕方がないかもしれない。

 「現在、ダイバーシティに積極的な企業が続々と増えている」と語るのは、リーマン・ブラザーズ証券。

 ダイバーシティとは、グローバル化が進んで、社会が変化するなかで、性別、国籍、年齢、宗教などの「壁」を取り払い、さまざまな立場の人が能力をフルに発揮できる環境を整えるという、企業戦略の一環である。その対象とされるのは、一般的に女性、高齢者、障害者、他国で働く外国人など。場合によっては、同性愛者などが含まれることもある。

多様な人材確保が急務に
危機感が企業の背中を後押し

 何を隠そう、その「同性愛者のコミュニティ」を設けているのが、このリーマン・ブラザーズ証券だ。世界的に盛り上がるダイバーシティの波をいち早く先取りした同社は、数年前からLGBT(性的マイノリティー)の人権擁護と活用を目指している。毎年数回に渡り、都内有名大学のLGBTサークルなどに声をかけ、優秀な人材を採用しているのだ。

 ちなみにLGBTとは、ゲイ(男性の同性愛者)やレズビアン(女性の同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(性同一性障害者)の頭文字を取ったフレーズだ。

 社内に設けられたLBGLN(リーマン・ブラザーズ・ゲイ・アンド・レズビアン・ネットワーク)というコミュニティは、これまで肩身の狭い思いをしてきた同性愛者の社員が、お互いの境遇や目標を分かち合ったり、イベントを通じて親交を深める貴重な場となっている。同性愛者同士の結婚を皆で祝福したり、識者を招いて講演会をするなど、雰囲気はとてもアットホームだ。

 社内には、この他にも、女性や障害者のバックアップを行なうコミュニティも存在する。「各コミュニティの参加者は垣根を越えてイベントに参加し、親交を深めている。昨年は皆で富士山に登り、その参加者の寄付金は障害者の国際団体に寄付された」(リーマン・ブラザーズ証券)という。

  「今や欧米企業では当たり前となったダイバーシティだが、日本企業の意識はまだまだ低い。ここまで先進的な取り組みは国内にほとんど例がない」と専門家も驚くほど、同社は時代を先取りしているのだ。リーマンの他に、日本IBMも性的マイノリティーの社員に理解が深いことで知られている。

 そもそも、日本企業がダイバーシティを重視し始めた背景には、社会構造の変化がある。少子化により、今後は優秀な社員を大量に採用するのが困難になる。CSR(企業の社会的責任)も重視されるようになった。そのため、多様な人材を積極的に活用することが急務となっているのだ。