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カツラーは今日も闘っているのだ!

「春」もカツラーにとっては敵である

小林信也 [作家・スポーツライター]
【第6回】 2010年3月4日
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春は大好きな季節だったが

 雪国生まれの私は、幼いころずっと長い冬を過ごしていた。グラウンドの雪が融けるのはたいてい4月に入ってから。4月半ばすぎまで野球ができなかった年もあった。最近は雪があまり降らなくなって、春休みに土が見えるのは普通になったらしい。

 雪のある生活は好きだったが、春の訪れもまた心躍るものだった。まだ雪の残る地面から、草花の息吹を感じるとき。雪融けの水で地面は濡れていても、確実に地温が高くなっている感じが身体に伝わってくる。理屈抜きに、芽生えを感じる季節。

 ところが、カツラーになって、その大好きな春が「敵」になってしまった。

 春はなんと、風の強い日が多いことか。

 目を覚まし、窓の外を見るとき、不自由なカツラーは天候とともに風の強さが気になる。木々の葉が穏やかに羽を休めていればホッとする。少しでも風に揺れていれば気が重くなる。言うまでもなく、カツラの乱れが気になるからだ。

 誰かと一緒に取材に行く、屋外での取材がある……、そんな日に強い風が吹いていたらもう心は暗く打ちひしがれる。

(帽子、かぶって行こうかな……、まさか、相手に失礼だしなあ)

 カツラが風で乱れるのを隠すために、帽子を被れば安心だ。が、室内に取材の場所を移したとき、帽子をかぶったままではマナーに反する。一度帽子でつぶれたカツラの髪をすぐ修復するのはもっと至難のワザだった。

 快適なカツラに替えてからは、風で乱れても自然だからほとんど気にならなくなった。仮に帽子をかぶっても、ブラシを入れればよほどなんとか修復する。

 不自由なカツラのときは、そうは行かなかった。だから、〈その日の風力〉が毎日の気分に大きな影響を及ぼした。一歩外に出たときの気の遣い方が全然違う。疲れも違う。首と肩に来る負担も違う。その実感から言えば、春は意外と風の強い日が多く、漠然とイメージする〈ポカポカと暖かい日だまり〉という心地よい日は、不自由なカツラー基準で言えばそれほど多くなかった。

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20代から薄げに悩み、ある日思い切ってカツラを選択した著者。が、スポーツライターなのにアウトドアを避けるようになり、テレビ出演も断わり、どんどん内向的に。カツラーの悩みと葛藤、業界の掟などを面白おかしく綴った一冊。

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小林信也 [作家・スポーツライター]

1956年新潟県長岡生まれ。慶応大学法学部卒。高校では野球部の投手として新潟県大会優勝。大学ではフリスビーの国際大会で活躍。大学生の頃から『ポパイ』編集部スタッフライターをつとめ、卒業後は『ナンバー』のスタッフライターを経てフリーライターに。2000年に自らカツラーであることを著書『カツラーの秘密』でカミングアウト。著書は他に『高校野球が危ない』『子どもにスポーツをさせるな』『カツラーの妻(おんな)たち』など多数。


カツラーは今日も闘っているのだ!

カツラーとは、カツラをつけている人を意味する愛称です。カツラーは人知れず、日々闘いの連続。闘う相手は、汗・風・水(温泉)、他人の視線(たぶん自意識過剰)、恋人・妻・家族、そして自分自身。そんなカツラーの哀しくも闘う姿をご紹介しましょう。

「カツラーは今日も闘っているのだ!」

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