例えば、交通事故被害者が脳に障害を負ってしまうことがあります。MRIの画像でそれを証明できればよいのですが、細かな損傷などで画像に映らないこともあります。このような場合は後遺障害認定をあきらめてしまいがちですが、交通事故被害に詳しい弁護士なら、それを証明する手立てを持っていることも多いものです。

ある分野に特化したほうが知識や経験値は当然高まりますし、事務所の業務効率や教育レベルも飛躍的に高まります。都心部のような競争が激しい環境では、特化こそが顧客に選ばれる最善の方法と言えます。

次の「横軸」というのは、従来の業務範囲を広げていくことで商品力を上げる方法です。すなわち、これまで法律事務所が手がけてこなかった周辺業務を手がけるということです。

例えば、離婚分野は多くの弁護士が手がけていますが、これまでは家庭裁判所での調停段階から関与するケースが大半でした。夫婦で話し合って関係が修復できなくなってから弁護士に依頼するということです。

しかし、最近増えているのが、その手前の協議段階から弁護士が関与するケースです。この段階では、弁護士が調整役として機能することにより、当事者間で養育費や慰謝料といった離婚に関する条件を円滑に議論することができるため、調停や裁判に比べて解決までの時間やストレスが軽減されることも多いのです。いわば、これまで紛争マーケットでサービスを提供してきた弁護士が、非紛争マーケットに参入するということです。

また、法律事務所の中には、離婚の悩みを抱えている相談者のメンタルケアを行うところもあります。メンタルケア心理士などの資格を持つスタッフが対応することで、相談者の心の支えになることができます。これは従来の法律事務所が提供しているサービスではありませんが、相談者にとっては弁護士選びのポイントになることも少なくないのです。

――次の「立地」についてはどうでしょうか。

商品を特化したら、その商品のターゲットに合った「立地」を選ぶことが重要です。これまで弁護士は裁判所の周りに事務所を構えるのが当たり前でした。地方の裁判所に行くと、人がほとんどいないのに法律事務所だけが林立しているという地域もあります。以前は、依頼を獲得することよりも業務処理を円滑にするかどうかが事務所を経営する上では重要だったため、そのような状況となりました。