「そもそも、これは何なのか?」という問いかけを忘れない

LINE(株)CEOを退任した森川亮氏が明かす!<br />「本質からズレた努力」をしない確実な方法!1967年生まれ。筑波大学卒業後、日本テレビ放送網に入社。コンピュータシステム部門に配属され、多数の新規事業立ち上げに携わる。2000年にソニー入社。ブロードバンド事業を展開するジョイントベンチャーを成功に導く。03年にハンゲーム・ジャパン(株)(現LINE(株))入社。07年に同社の代表取締役社長に就任。15年3月にLINE(株)代表取締役社長を退任し、顧問に就任。同年4月、動画メディアを運営するC Channel(株)を設立、代表取締役に就任。(写真:榊智朗)

 僕がソニーに入社して配属になったのは、新規事業部。

 テレビやモバイルをインターネットとつなぐことによって、新しいサービスを生み出すのがミッションでした。これは、僕がずっとやりたかったこと。毎日のように企画書をまとめて、テレビ事業部などに提案を重ねました。しかし、どうにも議論が噛み合いませんでした。

 彼らは、テレビに関する超一流の技術者でした。ところが、彼らは「なぜ、テレビをネットにつなげなければならないのか?」「テレビとはそういうものではない」の一点張り。いわば、彼らにとってテレビとは、「電波で映像を受信する仕組み」だったのです。

 しかし、テレビとはそもそもそういうものなのでしょうか?

 僕は、テレビを発明した人はそんなことを考えていなかったと思います。おそらく、彼らは「遠く離れた場所に映像を届ける技術」を開発しようとした。それが、世界中の人々のニーズでもあった。そして、そのときに使える技術が電波だった。だとすれば、電波はあくまで手段であって本質ではない。ネットとつなげれば、テレビの可能性は格段に広がるはずなのです。

 ところが、人はしばしば、「今あるもの」に影響を受けてしまう。電波から受信するテレビがあれば、それがテレビだと錯覚してしまう。そして、本質からズレた努力をし始める。たとえば、テレビ業界は長年、画質の向上が至上課題でした。そして、ハイビジョンが生まれ、最近では4Kが生み出されました。そこには、最先端の専門知識がふんだんに活用されています。しかし、それは本当にテレビの本質でしょうか? 本当に人々が求めているものなのでしょうか?

 だから、僕は常に、この問いかけを大切にしています。
「そもそも、これは何なのか?」。ややもすれば、“専門家”がバカにしがちな素朴な問いかけですが、この問いかけこそが、僕をものごとの本質に立ち返らせてくれるのです。