必要な予算は全世界の軍事費のわずか12%

 レスターは崖っぷちにある地球の環境問題の解決に向けて、「プランB」と呼ぶ処方箋を提案します。プランBの「構成要素は四つある。二〇二〇年までに世界の二酸化炭素排出量の八〇%を削減すること、二〇四〇年までに世界人口を八〇億人以下で安定させること、貧困を根絶すること、そして森林、土壌、帯水層、漁場を回復させること」(20ページ)、簡潔に言えば、「気候の安定化」「人口の安定化」「貧困の根絶」「経済を支える自然システムの修復」です。

 そしてプランBを実現するために、エネルギー効率の良い世界経済をいかに構築するか、経済を支える自然のシステムをいかに修復するか、いかに貧困を根絶し、人口を安定させ、破綻しつつある国家を救済するかを個別に論じていきます。ここで重要なことは4つの構成要素が相互に深く関連していることです。「たとえば、エネルギー効率を向上させて石油への依存度が下がれば、二酸化炭素排出量も大気汚染も減る。貧困の根絶は人口の安定化にも役立つ。森林を再生させれば、炭素は吸収され、帯水層の涵養量は増え、土壌侵食も減少する。必要なだけのすう勢をいったん正しい方向に向かわせれば、それらは互いに強め合うだろう」(277ページ)と言います。

 プランBにかかる費用も天文学的な数字ではありません。レスターの試算によれば、それは年間一八五〇億ドルです。「これは全世界の軍事支出の一二%、そして米国の軍事支出の二八%」(275ページ)に過ぎないのです。安全保障というと21世紀のいまでも、議論は軍事をベースにしたものです。レスターは安全保障を再定義する必要性があると言い、次のように述べます。

「世界中に散らばる数百の軍事基地など、広範囲に及ぶ米国の軍備が文明を救うことはないだろう。それはひと昔前のものである。私たちが安全保障の目標を最も効果的に達成できるのは、食糧生産の拡大に力を貸し、家族計画の不足を補い、ウィンド・ファームや太陽光発電所を建設し、学校や診療所をつくることを通じてである」(260~261ページ)

 解決手段はあります。要は、世界の指導者たちが20世紀的な発想を転換し、世界の安全保障に対する最大の脅威が、気候変動・環境破壊であることで合意に達し、協同した歩調が取れるかどうかにかかっています。果たしてそれは可能なのでしょうか。

 レスターは日本に対して、省エネ家電の開発、新幹線に代表される都市間高速鉄道網の発達など、エネルギー効率の高い社会に高い評価を与えています。その一方で、「日本は、世界でも最も地熱に恵まれた国の一つである……地熱の潜在的な発電容量は八万メガワットを超えており、全国の電力の半分を賄うことができる。すべての原子力発電所と古くて汚い石炭火力発電所の多くを止めることができる」(日本語版への序文iiiページ)と指摘しています。

 現在、国会では安全保障法制の審議が佳境を迎えていますが、これも軍事的な視点が中心です。日本が国際社会で名誉ある地位を占め、本当に尊敬されるには、21世紀の安全保障とは何かへと問題意識を切り替える必要あると思えてなりません。我が国は地球環境問題解決のトップランナーになり得る、多くの科学技術を持っているのですから。