7月13日、オンライン証券大手の楽天証券が打ち出した株式委託手数料の値下げは、最大手SBI証券との熾烈な手数料引き下げ競争に発展した。およそ1ヵ月のあいだに、楽天が五回、SBIが4回もの手数料改定を発表。両社がここまで最安値を競う背景には何があるのか。2社の手数料引き下げ競争の行方を追った。

 7月14日、オンライン証券大手の楽天証券の会議室内は異様な空気に包まれていた。

 無理もない。楽天は、前日に打ち出した株式委託手数料の改定で、業界最低水準を提示したはずだった。ところが同日中に、業界最大手のSBI証券が、楽天を下回る水準まで引き下げると発表したのである。

 その翌日、楠雄治社長を含めた楽天証券の執行役員たちは、すぐさま今後の対応を話し合うべく会議室に集まった。

「もう後には引けない。行くところまで行くしかない」

 経営会議は、全会一致で再値下げの決定を下した。

「15分後に会議室に集合だ」

 経営会議の大号令を受けて、システム、顧客対応、コンプライアンス部門など、社内の半数もの社員たちが総出で対応に追われた。

 これが、その後1ヵ月にわたる手数料値下げ競争の幕開けだった。

 口火を切ったのは、個人投資家の株式売買代金シェアで2位の楽天だった。7月13日、国内株式と米国株式の委託手数料の値下げを発表。1注文の約定代金が10万円以下の手数料を、これまでの472円から198円に、それ以外の取引帯と米国株式についても、すべてSBIと同水準まで引き下げた。

 これにSBIがすぐさま反応した。同日中に、国内株式の委託手数料について、楽天が提示した手数料を下回る水準まで引き下げると発表した。

 すると今度は楽天が翌々日の15日、SBIと同水準にまで再度引き下げると発表。16日にはSBIがさらなる値下げを発表するなど、まさに堂々巡り。

 その後も引き下げ競争は続き、8月11日までの約1ヵ月間のうちに、楽天が五回、SBIが4回の引き下げを交互に打ち出したのである。

値下げ対象は限定的
単なるパフォーマンスか?

 楽天が手数料を引き下げた理由は単純だ。独走を続けるSBIに勝負を挑んだのである。