北京オリンピックまで5ヵ月あまり。本番が近づいているというのに、日本柔道界には暗雲が垂れこめている。

 1月から2月にかけてヨーロッパでは毎週のように国際柔道大会が行われる。オリンピック代表選考の材料になる重要な大会だが、出場した日本選手の成績が総じて低調なのだ。

トップクラスの選手が
国際大会でことごとく敗戦

 中でも最も権威のある大会に位置づけられ、トップクラスの選手が派遣されるフランス国際が象徴的だ。男女7階級ずつ14階級のトーナメント戦が行われたが、日本選手で優勝したのは男子60キロ級の平岡拓晃だけ。アテネオリンピック金メダリストの内柴正人は2位、上野雅恵は3位、銀メダリストの泉浩は2回戦で敗退した。シドニーオリンピック100キロ級の金メダリストでJOC選手強化キャンペーンのシンボルアスリート、つまり日本柔道界の顔といえる井上康生も準決勝で敗れて5位。3度目のオリンピック出場はほぼ絶望的になってしまった。

 期待が大きい選手ほど、それを裏切った時は批判にさらされるものだが、井上の場合は気の毒だった。低迷の代表格として扱われ、大会直前に発表したタレント・東原亜希との結婚と結びつけて責める声まであった。井上にとって結婚発表は、気持ちに区切りをつけて競技に集中する決意表明だったに違いない。その思いをくみ取らずにする短絡的な批判は選手に失礼だ。

選手の実力だけじゃない。
日本柔道界の構造的問題?

 ともあれオリンピックが直前に迫り、代表選考が大詰めを迎えているというのに、柔道界には明るい話題がほとんどない。北京オリンピックでは惨敗もあり得る雰囲気だ。この事態を招いた全ての責任を、結果が出せない選手に求めるのは酷だろう。彼らを育て世界に送り出す日本の柔道界に、そもそもの問題があるように思えてならない。

 4年前のアテネオリンピックで日本柔道は男女14階級で8個の金メダル、2個の銀メダルを獲得した。「お家芸復活」と喝采され、多くの人が4年後もその強さは続くと思った。

 しかし昨年9月、ブラジルで行われた世界柔道で厳しい現実を知らされることになる。女子は金2、銀2、銅3と8階級中7階級でメダルを獲ったものの、男子は金1、銅1のメダル1個しか取れなかった。惨敗したのである。

 この時、話題になったのが、100キロ超級・井上康生と100キロ級・鈴木桂治の敗戦だ。井上は小内刈りを仕かけたが返された。この返し技がポイントになり判定負け。鈴木の場合は仕かけた大外刈りが完全に決まったように見えた。が、勢いで鈴木の背中が畳についたことが相手の返し技と判断され1本負けした。ふたりは茫然自失。日本では「誤審だ!」と怒る人が続出した。日本代表の斉藤仁監督は「こんなの柔道じゃない!」と叫んだ。しかし、判定は正当とされた。