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アマデウスたち

大萩康司
生成りのセーターのような音色

週刊ダイヤモンド編集部
【第51回】 2008年10月24日
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大萩康司
写真 加藤昌人

 「泣きたくなるような」と作家の村上龍がたとえたその音色は、確かに単旋律を奏でただけで、物語性を抱き始める。糊のきいたワイシャツのような多くのクラシックギターは、それはそれで美しいが、生成りのセーターのような温かいその音色には、思わずうっとりとしてしまう。

 その個性はどこからくるのか。愛用の名器「ロベール・ブーシェ」は、「出したい音に応えてくれるだけでなく、知らなかった音を教えてくれる」。弦の上を滑る左手の指をますます細く長く張り切り、愛しい者を撫でるように脱力した右手の指先と爪が、優しく弦をはじき、掻き上げる。「ほかの弦楽器とは違って、両手が弦に触れるから、指や爪のちょっとした具合が大きな音の差になる」。なにより、弾き手の人間性を映しているのだろう。

 8歳のとき、母が趣味のギターを再開、そのサークルに加わった。メンバーの勧めでただちに個人レッスンを開始、乾いた布に水が染み込むように、みるみると腕を上げた。師の一人、福田進一は「様式感のある格好よさとは何かを教えてくれた」。パリの音楽院で学ぶ道が開かれた。弱冠20歳にして世界最高峰のハバナ国際ギター・コンクールで第2位に輝く。傲りや虚勢は微塵もない。あるのは感謝と歓びである。

 3月にリリースした9作目のアルバムは、武満徹がギターのために編曲したビートルズの4曲を含む、母もよく知るポピュラーナンバーばかりだ。

(『週刊ダイヤモンド』副編集長 遠藤典子)

大萩康司(Yasuji Ohagi)●ギタリスト。1978年生まれ。高校卒業後渡仏、パリのエコールノルマル、コンセルヴァトアールの両音楽院で学ぶ。1998年ハバナ国際ギター・コンクールにて第2位、レオ・ブローウェル賞(審査員特別賞)を受賞し、デビュー。2008年第18回出光音楽賞受賞。

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