ご存じない方のためにざっと解説すると、三流私大を卒業して、なぜか大手総合商社「五井物産」に入った大原笑介が、試行錯誤、悪戦苦闘をしながらも、職場のメンバーの愛情のこもったサポートを受けて成長していく、というストーリーです。

 「なぜか笑介」では、毎回お決まりのシーンとして、ここに掲げた「給湯室の会話」があります。

 笑介がしばしば出入りするのが、この給湯室。そこには決まって人事部の今日子さんと経理部の伸子さんがいて、笑介を励ましたり、からかったりする、いわば癒しの場所になっています。

 このシーンでは、課長がイライラしている原因について、伸子さんが「イライラの理由は、次長の座を争うライバルの存在にある」と指摘するのです。

 癒しだけではなく、実践的なアドバイスや、新人には知りえない社内の人間関係まで教えてくれる。給湯室はそのような場であり、女性社員は貴重な情報源だったのです。

 笑介の時代から20年経ったいま、ここに描かれた「給湯室の会話」はどうなったでしょうか?

女性社員が形成していた
見えない情報ネットワーク

 「なぜか笑介」の重要なサブ・キャラクターである今日子さんと伸子さんは、一般職社員でした。笑介は新入社員であるにもかかわらず、ふたりにお茶を入れてもらっています(ちなみに、このマンガの連載中の1985年には男女雇用機会均等法が公布されています)。

 給湯室は、いまもたいていの会社にありますし、そこに給茶機があったりします。しかし、女性一般職社員は激減しました。

 バブル崩壊後の「失われた15年」の間に、かつての今日子さんや伸子さんのような一般職社員は、相当数が派遣社員や契約社員に置き換わりました。これによって、「給湯室での会話」は事実上、消滅しました。

 「給湯室の会話」は、ひとつの象徴です。職場の中での、女性一般職社員と新入社員の親密なコミュニケーションが消えてしまったことが若手育成にもたらした影響は小さくない、と私は考えています。