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経済分析の哲人が斬る!市場トピックの深層

ギリシャのふり見て我がふり直せ!
日本が学ぶべき財政再建の失敗例

――熊野英生・第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト

熊野英生 [第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト]
【第177回】 2015年7月9日
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日本は中央銀行である日本銀行が国債を大量に購入して、債券市場の影響力を行使できるのがギリシャとは根本的に違うところの一つ

ユーロ離脱はそう簡単ではない
新ドラクマの価格暴落リスク

 ギリシャのユーロ離脱が不安視されている。ギリシャ(Greece)と退出(Exit)を掛け合わせて、Grexit(グリグジット)という造語を使う人もいる。だが、よく考えてほしいのは、ユーロ離脱にはそう簡単には実行できない「衝撃」があることである。

 たとえば、ユーロ建ての預金を持っているギリシャ人に、新通貨(仮称:新ドラクマ)を手渡そうとしても、大半のギリシャ人はその交換を拒否するだろう。これは、受け取り後に新ドラクマは著しく価値が減価するのがわかり切っているからだ。

 新通貨への交換は、国民にとって不利な取引になる。ユーロ離脱後、ギリシャ政府は新ドラクマを乱発するだろうから、ギリシャは悪性インフレに陥る。同時に、新ドラクマの対ユーロの為替レートは著しく減価して、ギリシャ国民は輸入物価の高騰に苦しむ。

 技術的に、使用通貨を新ドラクマに切り替えるには、ギリシャ人のユーロ建て預金を預金封鎖をして、強制的にユーロを一定の交換比率で新ドラクマに切り替えるしかない。その後新ドラクマは、下手をすると紙切れ同然に価値が切り下がるリスクがある。これこそ財産権の侵害であり、私有財産制を脅かす「掟破り」の措置である。

 念のために付け加えると、ECBがELA(緊急流動性支援)を通じてギリシャの中央銀行に融通している資金も、ギリシャがユーロ離脱すれば停止してしまうだろう。すると、ギリシャの民間銀行の資金繰りが行き詰って破綻する可能性も否定できない。国民の財産はそこでも脅威にさらされる。

 緊縮財政に反対する6割のギリシャ国民は、ユーロ離脱の恐ろしさが見えないから、「緊縮=NO」に賛成票を入れてしまうのだ。本当は、チプラス政権が国民に財政再建の必要性を納得させて、金融支援の落とし所を探るのが筋である。ところが、肝心なところを国民投票に丸投げして、緊縮反対の結果を導いて、EU首脳の提案に賛成しにくくした。チプラス政権の罪は重い。

 一方、資金を貸しているEUやIMFの側でも、ギリシャが新ドラクマを発行するようになると、新ドラクマ安になって、ギリシャからユーロ建て債務の返済が甚だしく困難になることは自明のはずだ。ECBは、ギリシャ中央銀行を銀行間決済システムを通じて支援していた部分も大きいとみられるので、ユーロ離脱はその資金融通の部分を不良債権化させる可能性がある。だから、そう簡単には、ギリシャをユーロ離脱に追い込めない。

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熊野英生 [第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト]

くまの・ひでお/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト。 山口県出身。1990年横浜国立大学経済学部卒。90年日本銀行入行。2000年より第一生命経済研究所に勤務。主な著書に『バブルは別の顔をしてやってくる』(日本経済新聞出版社)など。


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