しかし、その瀬戸がなぜここに?

「はい、丸山です。よろしくお願い致します」と、健太は緊張ぎみに頭を下げて挨拶した。

「そう緊張しなくてよろしい。今の私は、ただの勤労奉仕のアドバイザーだよ」

 そこにスティーブが割って入った。

「健太、こちらが副工場長のチョウさんだ。生産管理面で、私をサポートしてくれている」

 そのとき、後ろの女性が軽く咳払いした。細いフレームの眼鏡の奥に、切れ長の目が涼しげだ。きっちりと黒のスーツを着込んでいるせいか、冷たい雰囲気を醸し出していた。女性としては上背があるほうだろう。ハイヒールを履いているので、健太よりわずかに背が低いくらいだ。

 スティーブはもちろん忘れていないと女性に視線を送り、「あと、こちらが橋谷麻理さん。瀬戸顧問の姪っ子さんだよ」と紹介した。

 健太はその女性が瀬戸の姪であることを聞いて、やや場違いな雰囲気の女性が工場に立っていることを少し納得できた。瀬戸とはあまり似ていないが、やや緑がかった瞳の輝きだけは同じだった。

 健太は1人ひとりに軽く頭を下げてから、挨拶した。

「本社の経営企画部から赴任してきた丸山健太です。よろしくお願い致します!」

「いつこちらに到着したんだね」瀬戸が尋ねた。

「今日の昼のフライトで来ました。つい先ほどこちらに到着したところです」

「そうか、ご苦労さん。私は先週の金曜日に来て、下見をしていたところだよ」

〈下見?瀬戸顧問がここで何してるんだろう〉

 健太の頭の回転が追いつかないうちに、瀬戸は「それじゃ、後で」と言って足早に去って行った。残りの2名もすぐ後に続いた。