健太はたまらずスティーブに事情を聞いてみた。

「どうして瀬戸顧問がここに?」

「もともと当社は、設立時に小城山製作所から技術導入を受けていて、その支援を主導したのが当時の会長だった瀬戸顧問らしい。その後の小城山製作所による当社の買収も、それが縁で、瀬戸顧問の中国の知人が小城山製作所に持ちかけたものだと聞いている」

「それがあの写真の人物か……」健太は階段の踊り場で見た写真を思い出した。

「中国共産党の大物だよ。この出資が小城山製作所の中国展開の橋頭堡となったんだから、安い買い物だったと思うよ」

「確かにそうですね。でも、瀬戸顧問がここに来てるのは、どういうことなんです?」

「小城山製作所の中国拠点網作りという大きな目的は達成したけど、肝心のこの会社の業績が苦戦していることを聞きつけて、様子を見に来たらしいよ」

「なるほど」

「その一環で君が送られてきたのかと思ったけど、違うのかい?」

「いや、そんな話はまったく……」と言いかけて、柳澤の含み笑いの意味が少しわかったような気がした。

「まあ、そんなことはいいか。ひと回りして2階に戻ろう。あと30分ほどで定例報告会が始まるから、健太にも参加してほしいんだ」

 スティーブが言うと、2人は工場内のツアーを手早く切り上げ、大会議室に向かった。

(毎週火曜日と金曜日に更新。次回は7月14日更新予定)