問題の特定は地道な努力から

「それで、どこから始めようか。問題の本質を見極めろって言われても、どうすればいいんだろう」

健太さんが課題として挙げた3つは、どれも目に見える事象よね。その背後に根本的な問題があるってことじゃないかしら

「確かにそうだけど、背後の根本的な問題を見つけるって難しいな。まず1つ目の課題からすると、不安定な生産品質の問題は、なぜ不良率が高いのかを突き止めないといけないな」

「スティーブの見立てはどうなのかしら」

「ラインの最終段階でチェックがあって、不良品は弾かれているって言っていた。でも客先からは大量の不良品が返品されてくるんだ。最終チェックが甘いんだと思う」

「不良品の原因はわかっているのかしら」

「開発担当の山田さんは、静音と冷却性能がトレードオフの関係にあると言っていたよね。顧客からもこの2つの性能が求められていて、それが満たされないから返品されてくるのだと思う。ただ、山田さんも何が不良品の原因かは明言していなかった」

「健太さんは、何が原因だと思うの?」

「いや、正直よくわからないんだ。ただ、工場の生産ラインを見たときに気になったのは、折れ曲がったチューブが山積みになっていたことと、プレートをハンダ付けする工程で何度も作業をやり直していたことかな」

「健太さんは、生産管理のプロなの?」

「いや、残念ながらそうじゃないんだ。僕にできるのは、問題の解決に向けて一つ一つ障害を取り除いて地道に努力することだけかな……」

 おもむろに麻理は考え始めた。

〈何だかいきなりがっかりさせちゃったな〉健太は自分の経験不足を呪いたい気分だった。

 ところが、しばらく黙り込んでいた麻理が突然、「それはいい考えね。チョウさんに生産ラインの図面をもらってくるわ」と言って、会議室を出て行ってしまった。

 健太は狐につままれたように、1人で会議室に取り残された。

 やがて麻理が副工場長のチョウを連れて戻ってきた。

「チョウさん、今稼働している生産ラインを、作業工程ごとに区切って教えて頂けますか」

 チョウは頷いて、いきなりホワイトボードに図を描き始めた。確かにこのほうがわかりやすい。