麻理は続けた。

「生産工程のどこかで、あるいは複数の箇所で問題が発生していると思われます。それを解明する必要があります。ついては、2本ある生産ラインの1本をモデルラインとして、改善の取り組みに充ててはいかがでしょうか」

「具体的にはどうするんだね」瀬戸が尋ねた。

「生産ラインは主に10工程から構成されています。この中で主な7つの工程のそれぞれにチェックポイントを設けます。そのチェックはきちんと基準を設け、ラインリーダーが確認するようにします。今はラインリーダーが1つのラインに2名しかおらず、リーダーの目が行き届いていないのが実態です」

 健太はラインを視察している際に和気藹々と作業している作業員の姿を思い返したが、確かに誰かが監督しているような様子はなかった。

「ラインリーダーを増員することは可能かね」瀬戸はスティーブを振り返った。

「人件費の上昇を抑えるために、リーダーをあまり作らないようにしてきたことが裏目に出たのかもしれませんね。在籍年数の長い優秀な作業員が何人かいますから、彼らにリーダーになってもらうことは可能です」とスティーブは答え、続けた。

「ただ、ラインの1つをモデルラインに切り替えるとなると、生産量が落ちますから、今の出荷要請に応えられるかどうか心配ですね。チョウさん、どうしましょうか」

「もう1本のラインを3シフト制にしましょう。人事部と相談して採用を早めてもらうようにします」

 健太は、昨日の定例報告会とは打って変わって、チョウが協力的なことに驚いた。責任を押しつけ合うことから、共同で問題を解決する方向へ話し合いが進んだことが功を奏したようだ。

〈なるほど、麻理さんは物事を早く進めるために参加者の数を絞ったのか〉

「それでは、早急にモデルラインを稼働させよう。ライン2をモデルラインにして、ライン1は3シフト制で増産に備えよう」とスティーブが即座に決定した。そして健太に向かって、「モデルラインの設置を手伝ってもらえるかい?」と言ってきた。

「もちろんです!」健太は即答した。

「それでは、健太には本件のプロジェクト・マネジャーになってほしい。モデルラインを設置するまでの作業項目を明確にし、担当者を割り振り、それぞれが確実に進捗するように管理してもらいたい」

 健太は早速ホワイトボードに作業項目を書き出していった。

(1)各工程のチェック項目の決定(責任者:山田)
(2)ライン2内のチェックポイントの設定(責任者:チョウ)
(3)ラインリーダーの任命(追加4名)およびその教育(責任者:チョウ)
(4)ライン1の3シフト制導入に備えた増員対策(責任者:ホワン人事部長)

「ありがとう、健太。それではすぐに各責任者と打ち合わせをして、早急にモデルラインが稼働するように作業の進捗を管理してください」と、スティーブが指示を出してミーティングを締めくくった。