8時3分前になると、経営陣が見守る中、いつものように各工程のラインリーダーのもとに作業員が一列に並んだ。健太も急いで開発担当の山田の隣に整列した。

「3分間チェック」が始まると、健太は各チームの規律の正しさに驚いた。以前も決して作業員たちが怠けているようには見えなかったが、「3分間チェック」を開始してからはラインリーダーの指導のもと、見違えるように統率の取れた集団となっていた。

 隣に立っている山田が話しかけてきた。

「どうだい、大したものだろう。以前はリーダー1人に対して作業員が15人もいたから、目が行き届かなかったんだ。この比率を『マネジメント・スパン』と言うけど、私が入社時に配属された小城山工場では、平均のマネジメント・スパンが5~7人だった。リーダーが目配りできる人数は限られている。間違った方法をすぐに指摘してくれるリーダーの数を確保できると、改善のスピードも加速されるね」

「なるほど。以前よりもかなりチームワークが取れていますね」

「各部品のチェックポイントも明確になり、不良部品をその場で仕分けられるようになってきた」

「それは良かったです。サプライヤーには、不良部品のどこが悪かったのか、きちんと連絡されていますか」

「先週ウェイさんと話したときは、サプライヤーの担当者に毎日連絡すると言っていたけど、一応確認したほうがいいね」

「わかりました。後でウェイさんに確認しておきます」

 健太と山田が話し込んでいると朝8時のチャイムが鳴り、生産ラインが動き始めた。

 作業員の動きは、健太が初めて見たときよりもずいぶんとリズミカルになっていた。素人目にも作業の習熟度が増していることがわかった。

 健太はモデルラインを見て回った後で、ライン脇のホワイトボードに目を移した。
ホワイトボードには工程ごとの不良率が毎日書き込まれており、モデルライン導入後の推移がわかるようになっていた。

 また、不良品の発生原因が件数の多い順にリスト化され、一目でわかるようになっている。それぞれの発生原因の横には、改善に向けた対策と担当者名が記され、対策の実行状況が緑・黄・赤の3色で色分けされている。緑色は対策が速やかに実行されていることを、黄色は作業が遅延ぎみで現チームの巻き返しが必要なことを、赤色は実行が遅れておりリーダーの関与が必要なことを示している。

「チョウさん、このリストはわかりやすいですね。誰が作ったのですか」

「麻理さんだよ。彼女が進捗管理でよく使っているテンプレートをカスタマイズしてくれたんだ」

〈さすが麻理さんだ。動きが早い〉と健太は舌を巻いた。

 一方で、モデルラインの出荷前検査における不良率は大きく低下していた。ラインの途中で不良品を特定できるようになったためである。

 本当に知りたい指標である客先不良率は、まだ入手できていない。通常は2~3ヵ月かかるところを、スティーブ自ら大口顧客数社に依頼し、モデルラインから出荷した製品の不良率を速やかに報告してもらうように協力を取りつけていた。