「今、伯父様と話していたところ。大変な事態だわ。この会社の資金はあと4週間しか持たないかも」

「えっ!?どういうこと?」

「伯父様が帰国する間際に、この会社の資金繰りが心配だから見ておいてほしいって頼まれたの。だから昨日、鈴木さんと13週間の週次のキャッシュフローを作ってみたら、初めて状況がわかったということ。通常は月次で見るキャッシュフローも、週次で見るとより詳細にいろいろなことが把握できるわ。すると、4週目で赤字に転落し、その後も現金不足が悪化していく様子がわかるの」

「確かにそれは危機的状況だな。それにしても、なぜ瀬戸顧問は資金繰りが危そうだとわかったんだろう」

「これだけ損失が累積しているのだから、どこかで厳しい局面が来ることは想定できたわね。これまでは地方政府の後押しで金融機関が資金を出してくれていたけど、この国でも金融機関に対するリスク管理が強化されつつあるから、懸念があったみたい」

「なるほど。それで、銀行からの支援はもう期待できないってこと?」

「CFO(財務担当責任者)のリーさんは、これまでメインバンクから『次回の貸出枠の更新はすんなりとは通らない』と言われていたらしいの。でも、そのことはスティーブにすら伝えていなかったようだわ」

「次回の貸出枠の更新時期って、いつなの?」

「貸出枠の総額は1億2000万元(約20億円)で、8月に6000万元、9月に残りの期限が来るわ。リーさんによると、半分でも更新してもらえれば御の字だそうよ」

「コントローラーの鈴木さんは、これまで銀行の方針転換を知らされていなかったの?」

「リーさんが銀行取引の実態を誰にも把握させなかったらしいの。地元の金融機関の態度が豹変したのも、今月初めに支店長が交代して方針変更があったからのようね」

「小城山本社から送金してもらえないかな」

「伯父様にもそれをお願いしたところ。でも業績回復が見込めない以上、社内の審査を通すのも時間がかかりそうだって。どうしよう……」

 健太はしばらく腕を組んで考えていたが、意を決したように言った。

「じゃあ、死にもの狂いで資金を確保するしかないね。せっかく会社が良くなろうとしているんだ。このまま倒産するのを黙って見ていられない!念のために、海外事業部の田中課長に状況を確認してみるよ」

 これほどの逆境に置かれても、健太は愚痴一つこぼさず、できるだけのことをやろうとフォーカスしている。健太の持ち前の正義感が、彼自身を駆り立てているようだ。麻理は、瀬戸がなぜ健太をこの会社に派遣したのか、少しずつ理解し始めていた。

「そうね!できることはすべてやりましょう!すぐに作戦会議をしないと」

 麻理も、その熱い思いに応えたいと思った。