失われた資材倉庫の在庫

 翌週の月曜日、スティーブと健太は、ウェイが事態の緊急性を理解し、支払い延期の対象となっているサプライヤーへの通知を確実に実行してくれるかの念押しをするために、彼のオフィスに向かった。

「ウェイさん、これは緊急事態だ。大変だろうが、サプライヤーに支払いを待ってもらうように交渉してほしい」と、スティーブは先ほどの指示を繰り返した。

「これまでもずいぶん無理を言って、便宜を図ってもらってきたんだ。これからさらに支払いを待ってほしいなんて、とても言えないよ」

 ウェイは、自分よりも後に入社したスティーブにはよそよそしく対応する。

「大変なことはわかっている。しかし、こちらも生きるか死ぬかの瀬戸際だ。何とか協力してくれ」

「命令なら従うが、どうなっても知らないぞ。この会社が資金繰りに窮していることが知られれば、サプライヤーからの出荷も止まる。当然、噂は顧客にも伝わるから、営業への影響も大きいぞ」

「それでも選択の余地はないんだ。まずは、対象となっている10社余りのサプライヤーに支払いサイトの延長について了解を取りつけるところから始めよう」

 そこまで聞くとウェイも根負けした様子で、スティーブの指示に従うことを約束した。

 スティーブと健太は、次に営業責任者のミンのオフィスに向かった。

 スティーブは手短に事態を説明してから、ミンに今後の対応を指示した。まずは、売掛金の総額が多い上位5社の顧客に対して、売掛金の回収時期を早めてもらうように依頼する。そして、必要に応じて、金額の一部をディスカウントするなどの条件交渉を行うというものだ。

 ミンは状況を理解し、即座に指示通り動くことを約束した。

 その後、健太はミンに、どの顧客にどれだけの売掛金があるかの詳細情報と、毎日の回収状況、そして上位5社の交渉状況を適宜報告してくれるようにお願いした。

 その頃、麻理と鈴木は資材を保管してある倉庫にいた。

 倉庫は30メートル四方の広さで、銅線や鉄板等が人の背丈ほどの高さで雑然と積まれていた。

 これらの原材料は市場価格で取引されているので、現金化しやすい。当面生産に使わない分は可能な限り売却し、資金繰りの改善に回すことになった。その決定を受けて、2人は帳簿の資産残高表と実際の在庫残高を照らし合わせに来たのだ。

 銅線ロールは、サイズごとに積み上げられている。鈴木がその個数を確認し、麻理が帳簿と突き合わせるという作業を丹念に進めていった。

「0.7ミリの銅線ロールが5個……」と鈴木が伝えると、麻理が反応した。

「おかしいわ。帳簿には8個あることになっています。もう一度数え直してくれますか」

「この場所にあるのは5個だけだ。別のところに紛れているかもしれないから、他のサイズも確認してみよう」