「昨日はサプライヤーの2社に連絡を取ったが、責任者が不在で、まだこちらの依頼を伝えられていないんだ」

「ウェイさん、我々が直面している状況は緊急を要するということをよく理解してほしい。これは先方への依頼ではなく、通告です。対象となっているすべてのサプライヤーに対して支払いを1カ月延期する旨を、本日中に伝えてください。明日の会議では、その結果を報告するように」

「しかし、支払い延期を要請されたサプライヤーの中には、当社に対する態度を硬化させるところもあるから、納入をストップされるリスクがあるぞ」

「それもやむを得ません。そうなった場合は現状抱えている在庫で凌ぐほかありません。ただし、極力そうならないように説得してほしい。まずは、速やかな通告をお願いします」

 スティーブの強い口調に、ウェイは渋々頷いた。

「次に資産売却の件。鈴木さん、お願いします」

「はい。資材で3カ月以上の在庫を抱えているものは、総額で2000万元(約3億4000万円)です。それらを速やかに資金化したいと思います。ただ、その取得価格で処分できるわけではないので、売却損が出ます。おそらく半額で売却できれば上出来だと思います」

「承認します。これで2週間ほど猶予ができますね」

「いえ、正確には10日間です。帳簿上存在するはずの在庫が一部紛失していますから」

「えっ、どういうこと!?」思わずスティーブが聞き返した。

「帳簿上の資産残高と比べて、倉庫の残高が少ないのです。誰かが許可なく、倉庫の外に移したということです。生産ラインに積んである在庫も確認しました」

「ウェイさん、倉庫の在庫管理はどうなっていますか」

「年度末の監査の際に、帳簿と実際の在庫を確認しているよ。ただ、担当の会計士もすべての在庫を細かに確認しているわけではないので、いつから差が生じたのかは、はっきりとはわからないな」

 ウェイは戸惑うように答えた。

「チョウさん、資材の不正な持ち出しを防ぐように、至急対策を検討してください」

「わかりました」

「それではリーさん、銀行との交渉状況を報告してください」

「当社のメイン行である上海地方銀行は、一切の追加融資を断ってきました。また、今の借入金の期限が3カ月後に迫っています。このロールオーバー(期限に同額のローンを実行する実質の延長)も、新しい支店長は厳しいことを言ってきています。黒字化の目途をつけるのが条件とのことです。他の取引行は、上海地方銀行の動きに追随して同様のコメントをしています」