チョウは、在庫の不正な持ち出しを防ぐというスティーブの指示を受けて、早速動いた。

 まず、倉庫のセキュリティーを強化した。資材の持ち出しを原則午前8時から午後5時までとし、それ以外の時間はチョウの許可なく持ち出せないこととした。そして、いかなる資材の持ち出しも、倉庫の警備員が書面で確認・記録することとした。

 また、工場の正門に警備員を配置し、ゲートを通過する車のトランクはすべて警備員が確認するように指示した。この措置は徹底されており、総経理のスティーブとて例外ではない。

 さらに、外部からの盗難を防止するために、工場の塀沿いに防犯カメラを設置し、正門以外の出入りができないようにした。倉庫の在庫確認についても、リーと相談して月次で行うこととし、社内に通達を出した。


 その頃、ウェイはサプライヤーへの対応に頭を悩ませていた。電話で買掛金の支払いサイト(期間)を延ばすことを順に説明しているのだが、相手の反応がいつになく厳しい。

「いくらウェイさんの頼みだからって、支払いを30日も延ばされたら生きていけないよ。もともと2カ月のサイトだって他社より優遇しているんだ。それが3カ月になるなら、取引を考え直さなきゃいけないな」

「そこを何とか頼むよ。長い付き合いじゃないか。今の総経理はまったく融通が利かないんだ。あくまで暫定的な措置だから、そんなに長くは続かないよ。すぐに2カ月に戻すから、今回は私の顔をつぶさないでくれよ」

「本当に困るよ。うちだって資金繰りは厳しいんだから。従業員の給料すら払えなくなる」

 そこを何とか、と何度か押し問答をして、ようやく相手を納得させたのだ。

〈これをあと10社以上とやらないといけないのか〉ウェイは早くも気が重くなった。


 一方、スティーブはGM室にチョウを招いて、クランクケースのフーナン社への設備売却とアウトソースについて相談していた。

「チョウさん、今回の資金繰りのことも考えると、この案件は重要性と緊急性がとても高く、失敗できないと思います。今はサプライヤーとの交渉をすべてウェイさんに任せていますが、彼がこの話をまとめ切れると思いますか」

「正直言って、難しいかもしれませんね。今回の話をまとめると、クランクケースはすべてフーナン社から調達しなければなりません。ウェイさんは他のサプライヤーとも付き合いがあるので、当然彼らから不満が出るでしょうね。ウェイさんがどこまで真剣みを持って交渉してくれるか、疑問です」

「ウェイさんが他のサプライヤーからの依頼を断れない事情でもあるんですか」

「ウェイさんと彼らの付き合いは長いですからね……。お互いに融通を図り合ってきた間柄なんでしょう」