翌日、健太は麻理と鈴木と一緒に、事業計画を練り直していった。

 3人はまず、リーが銀行に提出した事業計画の前提条件の見直しに取りかかった。そこに記されていた前提条件は根拠のない楽観的なものばかりだったので、それらを現実的なものに直していく必要があった。それをベースケースとして、今進めている施策で想定している改善効果を積み重ねていくのである。

「鈴木さん、調達コストの改善と人件費以外のコスト削減効果を入れても、まだ黒字になりませんね」

 ため息交じりに麻理が言った。

「そうですね。モーターとシェルのアウトソースによるコスト削減効果を入れても、まだ足りません。まだ交渉中ですが、クランクケースの削減も入れましょう。他に入れられる施策はありませんか」

「生産品質の改善効果はぜひ入れましょう。不良率は着実に下がっているので、返品された不良品や廃棄資材などのコストは、コスト削減効果に含められます。あとは、売上の改善効果も入れたいですね。既存品は需要が横ばいで価格を上げるのも難しいので、新製品の上市を早めるほかないでしょう」と健太が言うと、鈴木も頷きながら答えた。

「瀬戸顧問のおかげで、今週から本社の2名の技術者が派遣されています。これで開発が加速されるとよいのですが。彼らにも開発状況を聞いておきます」

「それぞれの前提条件について、根拠を示した資料を付けて、事業計画の蓋然性を高めるようにしましょう」

 麻理がそう告げると、それを受けて健太が言った。

「これは本社の説明用資料にも使えるね。本社からの資金支援を求める稟議では、黒字化が前提となるはずだからね」

 その後、3人は丸3日間作業を続け、主な前提条件を現実的なものに引き直す一方、業績改善策を網羅的に盛り込み、来期の黒字化を目指した事業計画を作り直した。

 スティーブは、3人が作成した事業計画を概ね承認し、いくつか前提条件の見直しを行って最終化させるように3人に指示した。


 翌月曜日の銀行とのミーティング当日──。総経理のスティーブ、CFOのリー、それに健太の3人は、練り直した新しい事業計画書を携えて上海地方銀行を訪問した。

 スティーブは新任の支店長に挨拶した後、30分ほど時間をかけて事業計画を丁寧に説明した。支店長も熱心に聞いている素振りを見せたが、話を聞き終わった後の一言は冷たかった。

「主旨はよくわかりました。しかし、この計画が実現するという見込みはありますか。当行は小城山上海を長年支援してきましたが、常に期待を裏切られてきました。それが急に計画通りになるとは納得できませんね。支援を継続する上では、黒字化が大前提です」

「それにはもう少し時間が必要です。せめてあと6カ月の猶予をもらえませんか」

「それまでは親会社から支援を取りつけてはいかがですか。そのために親会社からの出向者がいるのでしょう」と、支店長は健太のほうをあごで指した。

「その取り組みも同時並行で進めています」

「親会社からの支援の動きに進展があれば、ご連絡ください。それまでは、次回の貸出のロールを減額するという当行の方針は変わりません」

 新支店長の態度はとりつくしまがなかった。