異動や過重労働、家庭の不和――。うつの原因やきっかけは人それぞれだ。だが、表の原因の背後に、もっと深い問題が隠れていることがある。

 この事実を身を持って体感した人がいる。ダイヤモンド・オンラインの人気連載コラム「父と娘の就活日誌」の著者、楠木新さんだ。うつ体験者である楠木さんは、子どもの頃の記憶を掘り起こすことで、自分の中の根本的な問題に立ち向かうことができたと話す。

ある朝突然、新聞が読めなくなった

うつ、のち晴れ。

 「今でもよく憶えています。毎朝、通勤電車で読んでいた新聞を、あるとき、あっという間に読み終えてしまった。いつもなら目的地に着く頃、あわてて最終面に目を通しているのに」

 それは5年前のこと。異動になったばかりの本社に出勤する途中、ふと気付いた小さな異変がすべての始まりだった。普段、目を皿のようにして株価や円相場のニュースをチェックしているのに、なぜかなんの興味も湧かない。

 関心が持てないのは新聞ばかりではなかった。食事や同僚との世間話、仕事。何をするにもおっくうでならず、ほんの10メートルを歩くのもしんどくなった。おまけに頭も重い。まるでヘルメットをかぶっているようだ。夜もよく眠れず、明け方に目が覚めてしまう。

 「困ったのは、業務上の判断ができなくなってしまったこと。判断力そのものははっきりしているのですが、何かを選択する際には、ほかの選択肢を切り捨てなければならない。そのエネルギーがどうしても湧かないのです」

 このとき、楠木さんは47歳。3週間前に出向先から本社に戻り、営業開発本部次長という要職に大抜擢されたばかりだった。心療内科を訪れた彼に、医師は「抑うつ症状」という診断を下した。

 「最近は環境の変化から、短期間で体調を崩す人が多い。あなたの場合もそれでしょう」

とりあえず、1ヵ月間休職することになった。