行き詰まりを感じる経営者の視点が変わるきっかけ、企業再生のきっかけとなる「スイッチ」の見つけ方を、経営コンサルティングのプロフェッショナル集団・カートサーモンの河合拓氏が解説する第5回。今回は経営改革を遂げたい企業が「コンサルを上手く使うために必要なことは何か」に気づくためのスイッチだ。

課題解決の方法は
「最新かどうか」が本質ではない

「漫画で読むドラッカー」、「サルでも分かる投資」など、世の中はお手軽本、マニュアル本で溢れ返っている。我々はできるだけ簡単に、そして楽をして「魔法の杖」を手に入れたいと思うようになってきた。また、そうした市場の要求に応え、コンセプトをつくる人達も物事を単純化し、わかりやすく伝える技術を進化させてきたことも確かだ。

 しかし、その結果、我々は「魔法の杖症候群」に陥った。

 我々は、書店でコンサルや大学の経営学部教授などが書いた本を見ると、「最新の課題解決はないか」、「新しい手法はないか」と躍起になり、見たような話が書いてあると、「なんだ、前に読んだ話じゃないか」といって書籍を処分してしまう。私の周りにもこの手のビジネスパーソンが増えてきた。

 私も企業講演で改革事例の話をすると、必ず「その話は目新しくない」、「その話はこの手法とどこが違うのか」という質問をする人がいる。

 当たり前だが、問題解決の成功にとって、手法が「最新かどうか」、「過去に見たことがあるかどうか」は関係ない。むしろ、当たり前のことをキッチリやりきれない企業の体質にこそ問題がある。

 むろん、経営環境はめまぐるしく変わっており、我々が主戦場とする消費財業界では、「M&A」、「デジタイゼーション」、「インバウンド」という、今までにない経営課題が入ってきた。しかし、おそらく、こうした仕事を日本で最も手がけている我々カートサーモンでさえ、こうした時代の変化においても問題解決の本質は変わらないというのが実感である。

なぜ「コンサルは一見、戦略は正しいのに成果が出ない」のか今も昔も、同じ課題を抱え続けている

 例えば、私の専門であるファッションアパレル業界において、最大の論点は、今も昔も、市場が求めている総需要に対して総供給量が多すぎる、つまり、供給過多になっているということだ。この需給のズレを解消するまで、リストラやM&Aは繰り返されるだろうし、今後企業の廃業も増えてゆくだろう。アパレル大手のワールドやTSIが数百店舗の閉鎖を発表し、世の中は騒然としているが、ある意味歴史の必然なのである。

 こうした構造(供給過多)を正しく理解すれば、ファッションアパレル業界で成長するためには、新しい需要を創出するか、海外の市場に打って出る、あるいは、衣料品以外の領域に打って出るしかない。こんな話は30年前から繰り返され語られてきたことなのだが、日本のアパレル業界は、ファーストリテイリングなど一部の企業を除き、この30年なんら新しい価値を生み出してこなかった。やってきたのは、QR、SPA、オムニチャネルなどを形だけ導入するような、いわば、産業効率を向上させる施策だけで今もその体質は変わらない。