今年に入り、多くの自動車メーカーが北米市場の急激な落ち込みに大打撃を受けている。そのなかで、北米依存率も低く大型車を持たないスズキは、5割弱のシェアを持つインドを筆頭に、新興国で右肩上がりの成長をしてきた。

 ところがついにスズキの海外戦略にもかげりが見え始めた。8月の世界生産台数が前年比八5.8%と、40ヵ月ぶりにマイナスとなったのだ。

 変調が起きているのは、主力のインド。「米国の景気後退は全世界に影響を及ぼす。インドだけ例外ということはない」と鈴木修会長は強調する。

 インドの8月の販売台数は前年比10%減となった。政府のインフレ抑制策の一環で、自動車ローンの金利が上がり、買い控えが起こっていることが要因として挙げられる。

 スズキが四輪工場の建設を予定するロシアでも、ローン金利の上昇が懸念されている。米国の金融問題に端を発して、ロシアの銀行がヨーロッパから資金調達するのが難しくなるのは時間の問題。

 ロシアでは新車購入者の約半数がローンを利用する。現在の金利は13~14%程度だが、「これから数パーセント上がり、審査も厳格化する」(関係者)。

 ロシアの自動車市場は、日系を含む外国新車の販売が好調で、2004年は約40万台だったのが07年には約165万台と、わずか3年で4倍増を記録した。しかし、今年に入って伸びは鈍化しており、特に8月は顕著だった。サンクトペテルブルクでは10~20%の伸び率にとどまったという。

 さらに、折しも先月、サンクトペテルブルク市内にあるスズキの工場建設予定地から、泥炭と呼ばれる燃えやすい土壌が見つかった。当初予定していた工場建設費140億円に、泥炭の削り取り処理で50億円以上も追加費用が必要となる模様だ。

 09年後半の稼働を発表していた新工場は、初年度は5000台、14年には3万台体制にし、輸入車と合わせてロシアで5万台を販売するための基地となるはずだった。

 鈴木会長は「計画をやめることはない。まずは年内に地質調査を終わらせる」と、工場建設の中止は否定するが、現在のところ延期期間は確定していない。

 現地では年10%前後のインフレと、労働力不足が深刻だ。稼働開始が遅れれば遅れるほど、スズキにとってはコストアップになる。

 このほか、この10月から代理店を設けて再参入するブラジルや、同社のシェアは低いが、市場の伸びが有望視される中国でも、米国不況の影響は否めない。新興国市場を得意とするスズキの実力が試されている。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 柳澤里佳)