企業の生産計画も前提は収穫逓減の法則

 労働価値説では、物やサービスを提供する側が価値を決めていることになります。労働価値説を生産費説とも言いますが、供給側の価値ですよね。だから「供給すれば、長期的にはすべて需要される」というセイの法則が生まれたわけです。

 しかし、新古典派は価値を決めるのは需要側(消費者)の効用である、としたのです。

 追加1単位当たりの増減を基本に考える限界概念を使うと、いろいろなことが分かります。たとえば収穫逓減の法則がそのひとつです。限界効用は、需要側の欲望の度合いですね。収穫逓減とは、供給する側の生産に関する限界概念の導入です。

 生産要素(資本・土地・労働)の投入によって得られる収穫(収益)は、追加投入していくと伸びるけれども、しだいに伸び率が低下していきます。これを収穫逓減の法則といいます。

 収穫逓減の考え方は、古典派のリカードが提示していました。農業生産のために耕作地を拡大していくと、追加耕作地1単位当たりの収益率は逓減する、というものです。リカードは農業だけにこの考え方を入れていました。

受講者 なるほど。バイト先の牛丼店がまさにそうです。一番いそがしい時間帯は5人体制だけど、バイトの人数を増やしてもそれほど利益は増えず、追加労働量1単位当たりの伸び率はたしかに減少します。

 そう、まさにそのことを示しています。売上が増えても、コスト(バイト代)も増えるからね。

 企業は収穫逓減の法則(限界生産力逓減の法則)を念頭において経営計画を立てます。たとえば自動車会社がニューモデルを投入すると、ヒットすればしばらくは急激に収益が伸びる。当然、増産するよね。工場への追加投資、労働力の追加投入を行ないます。収益は伸びるけれども、コスト(原材料費や賃金)も増えていく。すると、生産要素の追加1単位当たり収益増加率は減少していきます。やがてまったく増えなくなる。このグラフの曲線が横に寝てしまう時期を予測し、次のニューモデルの開発を進める。

 牛丼店の場合も、単一商品を生産していくコストが増え、収穫逓減の法則にしたがって利益は出なくなります。その場合は新商品を出すしかないでしょう。牛丼関連商品の開発とそれまでより高価格帯の商品の供給が2014年から始まったよね。