インターネットの出現が、メディアの在り方を大きく変えつつあるのは周知の通りだ。ネットが変えつつあるのは、メディアそのものであり、また同時に、寡占によって守られた日本のメディア企業のありようにも一石を投じていると言っても過言ではないだろう。今回から特別編として2回にわたり、ベストセラー『ハゲタカ』(ダイヤモンド社/講談社文庫)などの著作でお馴染みの小説家・真山仁氏とともに日本のメディアの現状と課題を考えてみたい。(聞き手:山口一弥)

山口一弥氏
「インターネットの出現でメディア企業の寡占は崩れている」(山口)

山口 今まで日本ではメディア企業は寡占によって守られてきました。しかし、インターネットや携帯電話の出現によって、この状況が崩れつつあります。世界に目を向けると、メディアはメディアなりに、競争の中で様々な努力をしてきています。この点をとってみても日本のメディアは覚悟を持つべき時でないかと思います。『ハゲタカ』で日本の金融界が晒された実情を描き出された真山さんからご覧になって、日本のメディアの現状をどうお感じになられていますか?

真山 端的に言うと山口さんの指摘通りで、日本のメディアには競争の原理が働かず、本当の意味で全てが自由・公正かというと、疑問を感じます。ただ、その一方で、過去の日本において規制緩和という名のもとに、事前の準備もないまま、なし崩し的に全部フリーにしてどういう現状に陥っているかということは知っておく必要があるでしょう。

 新聞はともかく電波を扱う放送に関して言うと、ほとんどの国が基本的には外資企業は認めていません。極論ですが、クーデターを起こす際の重要な占拠施設のひとつに、放送局が含まれている場合が多い。放送・電波の社会における存在価値は、単なる企業間の競争にとどまらず、国益の問題に関わってくると思うのです。

 したがって、経済的合理性の観点だけで是か非かの話をすることには違和感を覚えます。また、規制緩和は世界の潮流だからという理由だけでドアを全部開けてみたら、少しも良くならなかったという例は、日本でも何度も経験しています。準備もせずにドアを開けることだけを目的にするのであれば、日本の新聞社や放送局が外国と同じようになるべきだという主張には、留保しなければいけない部分があると思います。