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めちゃくちゃわかるよ経済学 シュンペーターの冒険編

シュンペーターは被害者か、黒幕か?
対立を強めた「アルプス鉱山会社事件」の真相

坪井賢一 [ダイヤモンド社論説委員]
【第43回】 2009年5月27日
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シュンペーターを“邪魔者”に仕立てた
バウアーの思惑

 オーストリア共和国外相オットー・バウアーと財務相シュンペーターがアンシュルス(独墺合邦)政策と社会化政策の是非で対立していた1919年春、バウアーが所管するオーストリア社会化委員会が第1号国有化案件としていたアルプス鉱山会社(Osterreichisch-Alpine Montangesellschaft ★注1)の株が、いつのまにかイタリアの財閥に売却されていた事件が起きた。影の首謀者はシュンペーターだとされてしまったのだが。

 まずはバウアーの回想を読もう。

――彼(シュンペーター)はウィーンの銀行家、リヒアルト・コーラと結びついた。コーラは、シュンペーターの委任により、ドイツ・オーストリアのクローネの買い支え行動を計画し、大蔵省(財務省)のために外貨を買い占めた。

シュンペーターの委任によって、コーラはチューリッヒに旅し、そこでイタリアの金融グループと大がかりな取引をおこなった。すなわち、コーラは、アルプス鉱山会社の株式をイタリアの金融グループのために買い占め始めたのである。

コーラがアルプスの株式の売却代金のリラを、食料品と石炭購入の支払いのため外貨を緊急に必要としていた大蔵省(財務相)に引き渡したため、シュンペーターは銀行家のその行動を支持した。シュンペーターは、我々がアルプス鉱山株式会社の社会化を予定していることを知ってはいたが、銀行家の行動を支持した。

彼はその行動を支持し、他の政府閣僚には知らせなかった。その取引の進展をもはや留めることができなくなった時に初めて、我々は取引の全容を知った。シュンペーターのこの行動は、連合政府内で激しい衝突をひきおこし、そのなかで彼はウィーンのキリスト教社会党の支持を求め、そして支持された。シュンペーターは、第二次連合政府の選出にあたり辞職し、この衝突は終った。
(オットー・バウアー『オーストリア革命』★注2)――

 もっとも新しく、詳細な評伝(Prophet of Innovation,2008)を出版したトマス・K・マクロウ(ハーバード・ビジネス・スクール名誉教授)は、この事件についてまったく触れていない。しかし、内外でこれまで数多く出版されたシュンペーターの評伝は、ほとんどこのバウアーの回想を参照している。マクロウ先生は、この件については語りつくされていると考えたのかもしれない。

 バウアーの回想『オーストリア革命』では、アルプス鉱山会社株を買い占めたウィーンの金融ブローカー、リヒャルト・コーラがこの株を外資に売却することをシュンペーターが支持し、結果として連立政府の社会化政策を妨害したというストーリーだ。

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坪井賢一 [ダイヤモンド社論説委員]

1954年生まれ。78年早稲田大学政治経済学部卒業後、ダイヤモンド社入社。「週刊ダイヤモンド」編集長などを経て現職。著書に『複雑系の選択』『めちゃくちゃわかるよ!経済学』(ダイヤモンド社)『浦安図書館を支える人びと』(日本図書館協会)など。


めちゃくちゃわかるよ経済学 シュンペーターの冒険編

「経済成長の起動力は企業家によるイノベーションにある」とする独創的な理論を構築したシュンペーターの発想の冒険行を、100年前のウィーンから辿る知の旅行記。

「めちゃくちゃわかるよ経済学 シュンペーターの冒険編」

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