最後のオリンピック代表選考レース・名古屋国際女子マラソンが終わり、男女3人ずつの代表が決まった。巷では感動的な復活劇を見せてくれるはずだった高橋尚子の失速の話題でもちきりだが、ここでは冷静に今回の代表選考を振り返っておきたい。

男女ともに難航した
「3人目」の枠

 北京行きのキップを手にしたのは、女子は土佐礼子、野口みずき、中村友梨香。土佐は昨年9月に行われた大阪世界陸上で3位に入り早々と内定を得た。野口は11月の東京国際を2時間21分37秒という好タイムで優勝し当確。

 だが、3人目は少々微妙だった。候補は大阪国際で2位(2時間25分34秒)に入った森本友と名古屋国際で優勝(2時間25分51秒)した中村。タイムでは森本が17秒上まわっている。しかし、レース内容に差があった。森本は後続グループで自重したことで転がり込んだ2位だったのに対し、中村は常に先頭グループで勝負し競り勝った。その姿勢と「優勝」という結果に対する評価がタイムを上まわったのである。

 男子で代表になったのは、尾方剛、佐藤敦之、大崎悟史。男子も女子同様、3人目が微妙だった。候補は東京で2位(2時間8分40秒)になった藤原新とびわ湖毎日3位(2時間8分36秒)の大崎。ふたりとも優勝はしておらず、タイムも同等だ。ここでものをいったのが実績。大崎は大阪世界陸上で6位に入っており、02年にはアジア選手権で優勝した経験もある。藤原は26歳で初マラソン、大崎は31歳でマラソン出場は13回目。若さの可能性を買って藤原を推す声もあったが、実績と経験で上まわる大崎が代表に選ばれた。

選考の判断基準をめぐり
過去に軋轢も

 マラソンのオリンピック代表選考では、その判断基準をめぐってよく論争が起きる。世間を二分する論争に発展したのは、まず92年(バルセロナ大会)の有森裕子と松野明美だ。有森は前年の世界陸上で4位に入ったが、記録は2時間31分台と平凡。松野は大阪国際で新人の小鴨由水に敗れたものの2時間27分台とタイムは大幅に上まわった。陸連は実績を買って有森を選ぶ。この判断が妥当かどうかで世論は沸騰した(有森は本大会で銀メダルを獲得し、松野寄りだった世論を黙らせた)。

 前回04年(アテネ大会)の土佐礼子と高橋尚子の代表争いでも大論争が起きた。00年シドニー大会で金メダルを獲得し、日本中を感動させた高橋は2度目のオリンピック出場を目指して東京国際に出場した。だが、終盤に失速し2位。タイムも2時間27分台の物足りないものだった。

 一方、土佐は名古屋で激走を見せ、2時間23分台の好タイムで優勝。陸連は逆転で土佐を代表に選んだ。人気者の高橋の落選に多くの人は憤慨した。以前は実績をとったのに今度は記録を優先するとは何事だというわけだ。