究極のオーガニック日本酒を生んだ地方酒蔵の挑戦『和の月』(なの月)。ラベルには有機で育てた米の稲わらがすき込んである。題字も含めて物語がある

 日本酒。ワインやビールなど数ある酒のなかでも国名が冠された酒は世界にも類がない。この国の食文化の豊かさを支える重要な柱である。

 ところがデータのうえでは国内の日本酒(清酒)の消費量は右肩下がり。例えば昭和50年に167万5000klあった消費量は、平成25年には58万1000klまで減少した。実に約66%減という大きな減少幅だ。昭和45年に3533軒あった蔵元の数も平成25年には1652軒にまで減った。

 減少には様々な理由が考えられる。ビール、ウイスキー、ワインなどとの競争や生活様式の変化などもあるが、戦後のコメ不足から生まれた三増酒のイメージから脱却することができなかったことなどだ。

 そんな日本酒の世界は今、新しい時代を迎えている。僕自身もおいしいと思う日本酒に出合う機会が増えたし、周囲にも「日本酒好き」を公言する人が増えた。「クールジャパン」の一つとして海外からの注目もあり、アメリカやニューヨーク、パリなどでも日本酒バーが人気を集めている。個性のある蔵元が多様な日本酒を世に送り出しているからだ。今回、訪れた茨城県大洗にある『月の井酒造店』もそんな蔵元の一つ。

原料米から製法まで
全てがオーガニックな日本酒

 潮の香りのする街、大洗。『月の井酒造店』はその大洗にある唯一の酒蔵で、オーガニック日本酒でも有名だ。

 八代目を継がれたばかりの坂本直彦さんにお話を伺った。

究極のオーガニック日本酒を生んだ地方酒蔵の挑戦月の井酒造店の八代目で専務取締役の坂本直彦さん。夢は近隣の農家と農閑期にはその米で酒造りをすること。「自分のつくった米が酒になるって面白いと思うんです」

「オーガニック日本酒はここ十年の商品で、母が自分たちは食べ物には気をつけているのに、なんで売っている商品がオーガニックじゃないんだろう、というきっかけではじめたものです」

 オーガニック日本酒、誕生の物語については七代目坂本敬子さんによる手記『さいごの約束 夫に捧げた有機の酒「和の月』(文藝春秋刊)があり、この話はドラマ化もされた。

「まずお米の確保をしなくちゃいけない。酒造好適米(タンパク質の少ない酒造りに向いている品種)を探すことからはじまりました。有機JAS認証を受けるためには三年間、無農薬の田でないといけない。すると限られてきますよね。私たちの場合はたまたま茨城県内の農家さんとの出会いがあって、有機の美山錦にたどりつきました」