シリコンバレーで考える 安藤茂彌
【第11回】 2008年10月22日
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安藤茂彌 [トランス・パシフィック・ベンチャーズ社CEO、鹿児島大学客員教授]

ポールソンがゴリ押しした規制緩和が、
米投資銀行の自己崩壊を招いた

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 筆者が三菱銀行(当時)のトレーニーとしてモルガン・スタンレーに派遣されたのは、1979年だった。モルガン・スタンレーは、日本の商業銀行が仰ぎ見る、米国屈指の名門投資銀行として名声を集めていた。あれから29年。10月には三菱UFJファイナンシャル・グループが約9000億円を投じてモルガン・スタンレーの救済に乗り出した。いまや時代は大きく変わった。

 この1ヵ月間に、リーマン・ブラザーズは倒産し、メリルリンチはバンク・オブ・アメリカに買収され、ベアー・スターンズはJPモルガン・チェース銀行に買収された。残る二社、ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーは銀行持ち株会社を設立して、FRB(連邦準備理事会)の信用供与を受けられる銀行に変身した。これで大手の投資銀行はすべて消滅した。

 投資銀行という業種がなぜ消滅したのだろうか。モルガンの歴史を紐解くと1930年代の大恐慌に辿り着く。銀行に自由を許しすぎた大恐慌の教訓から銀行業務と証券業務に垣根を設けるグラススティーガル法が制定された。そして新法のもとでモルガン銀行は銀行業務の専業になることを決定した。当時モルガン銀行の幹部であったヘンリー・モルガンとハロルド・スタンレーは、モルガン銀行を退職して証券業務を行うモルガン・スタンレーを1935年に設立した。

 モルガン・スタンレーは、アメリカの大手企業の株式・社債の発行引き受け業務と、企業に財務面の助言を行うアドバイサリー業務を行い、少人数で事業を続けてきた。パートナーシップの形態をとり、銀行の収益は持ち分に応じてパートナー個人の所得として申告する仕組みとなっていた。業績がよければパートナーは高額な所得を手に入れられた。

 モルガン・スタンレーは70年代の初めまで、従業員数は100人前後の小さな会社だった。著名なビジネススクールを優秀な成績で卒業した毛並みの良いWASP(白人・アングロサクソン・プロテスタントの略)しか採用しなかった。

 筆者がトレーニーで派遣されたころには数百人の所帯に膨れ上がっていたが、増加人数の多くは株式・社債を顧客との間で売買するトレーダーであった。自己勘定で取引するディーラーはまだ少なかったように思う。そもそも投資銀行は金融機関から借金して資金調達しているので、資金コストは高く、借入枠は限られており、自己勘定で取引することは難しかったのである。

 当時はM&A(合併買収仲介業務)にも進出していたが、これも数十名の小さな部門であった。引き受け業務等の伝統的な投資銀行部門では社員は皆静かに仕事をしていたが、一旦トレーディング部門に足を踏み込むと罵声歓声が飛び交う戦場のような職場であったのを記憶している。モルガン・スタンレーは変身したのに、給与の高さは小さな所帯の伝統が残った。

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安藤茂彌 [トランス・パシフィック・ベンチャーズ社CEO、鹿児島大学客員教授]

1945年東京生まれ。東京大学法学部卒業後、三菱銀行入行。マサチューセッツ工科大学経営学大学院修士号取得。96年、横浜支店長を最後に同行を退職し渡米。シリコンバレーにてトランス・パシフィック・ベンチャーズ社を設立。米国ベンチャービジネスの最新情報を日本企業に提供するサービス「VentureAccess」を行っている。VentureAccessホームページ


シリコンバレーで考える 安藤茂彌

シリコンバレーで日本企業向けに米国ハイテクベンチャー情報を提供するビジネスを行なう日々の中で、「日本の変革」「アメリカ文化」など幅広いテーマについて考察する。

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