金融行政の混乱に拍車がかかっている。この1ヵ月ほどのあいだに、金融機関に対する規制緩和ともいえる優遇案がたびたび浮上、一方で金融界が反対してきた郵政民営化見直しが進むなど、方向性を失っている。「民営化見直しという“ムチ”に対して、“アメ”でごまかそうとしている」(金融機関関係者)との批判も上がるほどだ。

 政府から提示されたアメは、主なもので3つ。

 第1がペイオフの上限引き上げ案。金融機関が破綻したときに1000万円とその利息までの預金を保護する、ペイオフの限度額を引き上げて、預金を集めやすくしようというものだ。

 第2が金融庁による検査・監督の緩和だ。中小金融機関に限り、検査の手間を省けるようにするのが狙いだ。検査マニュアルに反映させることもにらんでいる。

 第3が、亀井静香金融・郵政改革担当相の肝煎りで成立した中小企業金融円滑化法の実質的な緩和。金融界から「当局が過剰に監督すれば逆に融資の円滑化を妨げかねない」という意見が相次いだことを受け、改善要望の受付を始めた。

 こうした一連の措置は、行政が金融界に譲歩しているかのように見えるがそうではない。民営化見直しという“ムチ”を振り下ろすのと引き換えに、“アメ”を与えようというのが見え見えなのだ。

 それぞれ濃淡はあるものの、これらの優遇案で最も恩恵を受けるのは経営が脆弱な中小金融機関。民営化見直しで肥大化に突き進むゆうちょ銀行が、大きな脅威となることは間違いないからだ。

 たとえば、ペイオフ上限見直しは、ゆうちょ銀行で検討中の預入限度額1000万円の引き上げに対応したものと見られる。検査・監督の緩和も、「小さな郵便局の検査を緩和する」(亀井氏)という方針と辻褄を合わせるためだ。

 ただ、ペイオフ上限を見直しても、国をバックにしたゆうちょ銀行の敵ではないし、検査・監督の緩和も、「実質的にはすでに実施していること」(金融庁関係者)というのが本当のところだ。

 もちろん、金融界は当局の意図はお見通し。ペイオフの上限引き上げ案については、中小金融機関から反対が相次ぎ、公表した3日後にはお蔵入りとなる始末だ。

 それでも、民営化見直しが強引に進められるのは、思惑は違えど関係者の利害が一致しているからと見られる。脱小泉改革を参議院選挙でアピールしたい亀井氏、その顔色をうかがう金融庁、国債の安定的な引受先を確保したい財務省、ジリ貧の郵便事業の維持のため金融で稼ぎたい日本郵政……。

 複雑な連立方程式を解くために推進される民営化見直し。4月頭にも亀井氏が結論を出すとされるが、単なる利害の調整のためでなく、中身が肝心の国民にどんなメリットをもたらすのかこそ問われるべきである。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木崇久)

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