依頼や説得の際に、付箋というありふれた文具にメッセージを書き添える行為が大きな威力を発揮する――こんな実験結果が示された。その原理は何か。

 

 他者に何かをしてもらうために、説得しなければならないことがある。作業を最後までやり通してほしい時などだ。読者の皆さんは驚かれるかもしれないが、依頼に応じてもらうための最も優れた方法の1つは、メッセージに個人的な雰囲気を少しばかり加えることである。そのために、付箋を使うとよい。

 テキサス州ハンツビルにあるサム・ヒューストン州立大学のランディ・ガーナーは、一連の優れた実験によって次のことを発見した(英語論文)。人を説得するうえで、(a)個人的な雰囲気(パーソナルタッチ)を加えること、(b)相手に「他の誰でもない自分自身が頼まれている」という実感を抱いてもらうこと、の2つを同時に行えば大きな効果があるのだ。

 ガーナーの実験の目的は、学内の教授たちにアンケートへの回答という作業を全うしてもらうには何が必要かを調べることだった(アンケートはしばしば、分量が多く退屈なものである)。コミュニケーションの手段は学内便でのやり取りのみ。実験の可変条件は付箋の使い方だ。ある実験で、50人の教授からなる3グループ(合計150人)を設け、グループごとに異なる依頼を付けて5ページのアンケート用紙を送付した。

グループ①が受け取ったアンケート用紙には付箋が付いており、そこには手書きでこう記されている。「少しお時間をいただきますが、アンケートにご協力ください。感謝します!」

グループ②のアンケート用紙には、同じ手書きのメッセージが付箋ではなく添え状の右上に書かれている。

グループ③のアンケート用紙には、手書きのメッセージはなく添え状のみ。

 さて、その結果はどうなったのか。

グループ③:教授たちの36%がアンケートを提出した。

グループ②:48%がアンケートを提出した。

グループ①:76%がアンケートを提出した。

 この実験結果を他の状況に対しても一般化するためには、付箋がなぜこれほど効果的なのかを理解する必要がある。ちっぽけなこの物体は、人間の行動反応を強く誘発する要因をいくつも備えているのだ。