※前編から読む

――前回は、アメリカとイランの雪解けが、世界的なエネルギー価格の低迷をもたらし、さらに世界の勢力図を変える可能性があると指摘されましたが、具体的にはどんな変化を引き起こすのでしょうか?

中原 エネルギー価格の下落でまず影響を受けるのが、資源大国と呼ばれる国々です。

中国に負けたくない米国が、ロシアと電撃和解する可能性国力の低下したロシアは、もはや中国に逆らえない?
(c)President of the Russian Federation

 たとえば、ロシアはGDPの約3割、輸出の約7割を石油・ガス産業が稼ぎ出しています。ロシア政府が得たエネルギー収入は、公務員の給与や年金などの形で国民に移転されています。資源価格がいまのように低迷を続ければ、ロシアでは国家財政が大きな打撃を受けるだけでなく、経済成長に強い押し下げ圧力がかかることになってしまうのです。

 過去の実績を見てもロシアでは、原油や天然ガスの輸出価格が上昇していたときはGDPが拡大基調になり、下落していたときは減少または伸びが止まる傾向があります。

 そのような状況ですから、いまのロシアはかなり追い込まれています。だからロシアは、中東で大きな紛争が起こってほしいと内心では考えている節があります。

 ロシアはウクライナ問題で経済制裁を受けている上に、昨今の原油価格の低下で経済的に大きな痛手を負っています。さらに、これからイランが国際社会に復帰して、原油と天然ガスを増産していったら、ロシアはたまったものではありません。それよりも、中東で混乱が続いてくれたほうが、ロシアにとっては歓迎すべき事態なのです。

 実際、ロシアは経済力が低下したばかりでなく、国際社会における政治力も著しく低下しています。

――政治や外交面でもロシアは弱体化していると。

中原 ロシアと中国との力関係を見ていきましょう。かつては中国よりもロシアのほうが経済力と政治力の双方を持っていました。

 2001年6月、中国、ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタンの6ヵ国による「上海協力機構(SCO)」が創設されました。政治、経済、安全保障などで連携を図るのが目的です。上海協力機構ではテロ対策を謳い、加盟国による合同軍事演習などが行われていますが、実は中国は当初、この枠組みでの投資銀行の創設を提案していたのです。しかし、中国の影響力の拡大を懸念するロシアが難色を示し、却下されています。

 それから13年後、2014年に中国がAIIBを提唱したときには、もはやロシアにそれをやめさせる力はありませんでした。それどころかロシアは、2015年になって自らAIIBへの参加を表明しています。