秩序は保たれていても
機能しない現実

 川内原発では福島の教訓を活かそうと、SPEEDIの測定結果で放射性物質の飛散状況を確認しながら避難経路を決めるというのですが、その情報を誰が統制できるのでしょう。また、急に風向きが変わったらどう対応するのでしょう。その点については考えられていません。

広瀬 僕はSPEEDIを使うかどうかについて議論しないほうがいいと思っています。風向きはその時々でどんどん変わるんです。とにかくできる限り遠くに逃げるということしかない。そう考えると重要なのは、避難道路です。

 そうですね。

広瀬 浜岡原発の反対運動の集会で、集まった人たちに私が言ったのは、「事故が起きたら、道路が渋滞するので絶対に逃げられない」ということでした。
その話をすると、全員が下を向いてしまいました。人間は本当のことを言われると、聞きたくなくなるものです。

 ところがその直後、2007年7月16日に新潟県中越沖地震が起きて、柏崎刈羽原発が大破壊されたとき、私の言ったとおりになった。自動車がみな同じ方向に走っていくので、大渋滞になってまったく動かない。反対車線はガラガラなのに。

 移動時間が長くなると、お腹も空くし、トイレにも行きたくなります。疲労してくるとお年寄りのなかには「いいよ、逃げなくても」「もう降ろして」という人も出てきます。
 さらに見落とされがちなのが、体が不自由な方、精神障害のある方です。重い障害を持つ人が入居している施設では、動かせないので避難しないという選択しかないケースもあります。

広瀬 今年5月30日、小笠原でマグニチュード8.1の大地震がありました。その翌日、私は障害者の人たちにその揺れが大きかった横浜講演で呼ばれていたので、冒頭から地震の時の逃げ方をくわしく説明しました。

「あなたたちは一番危ない。どうしたら逃げられるかを今から真剣に考えておいてください」と。「助けてください」と書いた紙を掲げる、人間が集中する大きな駅には向かわない、できるだけエレベーターや自動車を使わない、といった具体的な話です。しかし、車椅子の人たちは、周囲の人に助けてもらわないと、逃げられないのです。

 公共インフラもストップするでしょうし、動いていたとしても大混雑するでしょう。

広瀬 ちょうど10年前、千葉県浦安で中規模地震が起きたとき、中央線の荻窪から新宿まで電車で行くのに、駅6つで2時間かかりました。中規模地震でも電車は点検のため動かなくなってしまいます。

 新宿に着いたらプラットフォームは人が落ちそうなほど身動きできない超大混雑で、階段にゆけず、外にも出られませんでした。新宿、渋谷、品川などの主要乗り換え駅に人が集まり、大混雑が起きるのだと、初めて知りました。そのとき青梅街道も自動車が大渋滞でした。

道路も公共交通も機能しなくなることをきちんと考えるべきです。人々は自制心を保ち、秩序だって動いているのですが、逃げられない。

広瀬 避難は具体的に考えないといけないし、大事が起こる前の準備が必要です。