国立競技場のみならず、エンブレムのデザインも見直しとなり、迷走状態とも言える東京五輪2020。組織委員会(の人選)自体も見直したほうがいいのではないか、という意見も多数あるようだが、僕は、テーマ自体も見直したほうがいいのではないかと思っている。

 そこで読者の皆さんにお聞きしたいのは、「今回の東京五輪のテーマは何かを知っていますか?」ということ。たぶん、多くの人が知らないと思う。というか、「そもそもテーマそのものがない」という話もある。

 それは、過日のエンブレム騒動報道のなかで言われた、何人かの識者の指摘だ。通常はこのような国家的イベントに関わるデザイン決定には、まずイベントのテーマがあり、そのテーマに基づいてデザインコンセプトが決まり、最後にデザイン案が決まる、というのが本来あるべきプロセスと言える。しかし、今回の東京五輪にはそもそものテーマがないので、良いデザインといっても何を基準にすればよいか判断ができない。それが識者たちの指摘である。

コンパクト?おもてなし?本当のテーマは?

 しかし、オリンピックのような国家的かつ国際的なイベントでテーマがない、というのは本当なのか。2年前の招致活動のときに訴求していた「コンパクト開催」とか「おもてなし」がテーマではなかったのか。と思って少し調べてみたのだが、どうもハッキリしない。

 そこで、組織委員会の公式サイトを見てみると、“ビジョン”として「スポーツには世界と未来を変える力がある」「みんなのTomorrow」という文言が掲げられている。“ビジョン”と“テーマ”は厳密に言えば似て非なるものだが、事実上このビジョンが、今回の東京五輪のテーマだと考えてもいいだろう(というわけで、当記事では以降、ビジョン=テーマとして論じる)。

 僕は、このビジョン自体は悪くないと思う。「何のために数千億円もの税金を投じて、このスポーツイベントを、国を挙げてやらなければならないのか?」という問いに対して、一応の回答になっていると思うからだ。「デザイン」というものを考える場合にも、デザイン業界やクリエイティブ業界の世界的なトレンドにも合致している。

 そもそも、今回の国立競技場やエンブレムに関する騒動は、この「デザイン」に関することなので、デザインに関連するトレンドを簡単に説明しておこう。それは、「クリエイティブはいかにして世界を変える力を持ち得るか?」ということ。世界的なトレンドがその方向に進んでいるのだ。