書籍『1枚のシートで経営を動かす』では、経営改善計画の最重要点を「1枚のシート」に集約し、その解説を目的として出版しました。この経営改善計画と二つの業界――金融業界と税理士業界――の関わり方を眺めることによって、日本経済の再生の道を見出したいと思います。

 経営改善計画が現代的な意味をもって登場したのは1999年の金融検査マニュアルでした。金融検査マニュアルは、BIS規制に基づく金融機関の資産査定の手法として導入され、実現可能性の高い経営改善計画が立てられているならば格付けのランクアップをして良いというものです。

 そこでは、計画の作成主体は企業自身ですが、誰が作成支援するかは明示的ではなく、その後の展開から金融機関がその任に当たることが期待されていたことがわかります。要するに、経営改善計画は金融マターとして登場したのです。

 図表にこの間、20年ほどの主要な出来事の推移をまとめましたので、これを見ていただきたいと思います。

 いくつかのポイントをあげれば、2003年の「リレバンの機能強化に向けて」、同年の「目利き」の養成、そして、極め付けは2009年の金融円滑化法で、当時の亀井静香金融大臣による金融機関向けの「コンサルティング機能の発揮」の要請がありました。周知のように、この法律は2年延長されて終了しました。

 この頃、2012年に特異な動きがありました。金融庁と中小企業庁(経済産業省)が「一体的取組み」によって「中小企業経営力支援強化法」を制定し、「認定支援機関」制度をスタートさせたことです。2015年5月現在23,828機関でうち85%20,155機関が税理士事務所・税理士法人となっています。

 さて、このような13年間の金融業界の動きを眺めながら、私の判断を述べたいと思います。

 第一は、経営改善支援が金融業界には十分に出来なかったということです。本来、経営改善計画というテーマは策定支援ではなく、改善支援です。かるさばの計画づくりなら誰でもできます。でも1年後に同じ赤字が続くなら無意味です。赤字を黒字にする計画づくりに本気で取り組み、これを実現させる。前者はできても後者ができなかったわけです。

 なぜ、できなかったと断じるのか。金融機関にとって改善対象企業は現貸付先として情報は十分持っていますし、もともと人材募集に関しては大卒の上澄みを採用しています。従事者数は間接金融がざっと13万人ですから、能力といい情報といい工数といい、ベストのポジションにあるはずなのに、認定支援機関制度が発足したというのがその証拠です。

 金融人にもいろいろ言い分はあります。我々は金融機関に就職したのでコンサルテントになったわけではない。金融と財務分析のプロではあっても、経営のプロではなく、プロの経営者に経営指導などできるはずがない。また、立場を考えれば、債務者たる経営者が債権者たる金融機関に本音を語るはずがない。現状でも貸出部門は不採算なのに、この上、工数を割けるはずがない云々と。

 第二は、円滑化法の出口が見えた時点で、恐らく金融庁は金融行政の破綻状況を目の前にして、危機感を抱いたのでしょう。円滑化法を活用したリスケ企業数が30~40万社あり――この内5~6万社が事業再生・転廃業が必要な先と言われる――、これが宙ぶらりんのまま放置されている(データ未公表だが推定金額は60兆円程度)。

 厳しく査定すれば、企業は倒産し金融機関の業績は悪化、自己資本は毀損され(大手行、地銀、信金等貸出全金融機関の自己資本は概算50兆円程度)、マクロ経済への影響は大きい。頼みの金融機関の動きは鈍い。進退極まって経産省と提携して改善支援を行う認定支援機関制度を創設したと思われます。

 考えてみれば、ここ30年にわたる日本経済の諸々のツケが――円高による産業空洞化、バブル期以降の金融風土の変質、BIS規制対応等々――が金融円滑化法利用のリスケ企業30~40万社に出ています。日本企業の1割強、中小企業向け貸出の約20%が不良債権予備軍のレッテルを貼られているのです。

 さて、ここで総括しましょう。先にも頭出ししたように金融現場の人間としては言いたいことは山ほどありましょうし、わかる部分もあります。恐らく、土台には、かつて護送船団方式と言われた規制型の金融システムの幣があるのでしょう。しかし、1997年の時点で『情報創出型金融』(きんざい)を出した人間として――「情報創出型」とは企業育成型、経営支援型の意味――、戦略的、創造的に動けない金融業界に忸怩たる思いを禁じ得ません。結果として信金等の合併が続き、地銀の経営統合がマスコミで言われ、『事業性融資』が要請されている金融閉塞の状況が目の前にあるのです。

 要点はこういうことのようです。目の前にある「顧客への貢献」のために汗を流すと決断する、そのために戦略的、創造的なイノベーションを起こし業態変革する、この二つを行わない業界と組織は閉塞し衰退する、と。

 結論です。「顧客への貢献」こそがビジネスの基本で、この原則に従えば繁栄し、この原則に反すれば業界も組織も衰退します。目の前にある社会のニーズに対応すべく、汗をかかない業界や組織が衰退してもそれは当然なのです。