銀座の名店はなぜ消えたのか?

「価値」をお伝えするうえで、もう一つ記憶に残るエピソードがあります。

 これもTV番組の話ですが、「バブル・サブプライム崩壊後に銀座の名店が消える?」というお話でした。取り上げられたのは、かつては一世を風靡した天ぷら屋さんでしたが、徐々にお客様が来なくなり、この時は経営が続けられない状況にあるお店でした。

 超一級品をそろえ味はもちろんおいしいのですが、番組内で店主は「心を込めておいしい料理を作っていればお客様は来てくれる」と、黙々と天ぷらを揚げるばかりでした。

 私が考えるに、このお店が銀座で名声を誇っていた時代には、このお店の価値を来店するお客様がみんなよく知っていたから繁盛していました。しかし、バブル・サブプライムの崩壊で、そういった銀座の名店を知るお客様が急激にいなくなり、結果、来店者が減ってしまったのではないでしょうか。

 たとえば、目の前で食べているお客様には、そういった情報や知識がないかもしれないのに、「うちは老舗の名店なので、店のことはみんなよく知ってくれている」と店側が思い込んでいたとします。つまり、価値を情報として伝える努力をしなくなってしまったから、お客離れが進んでいることに気付いていないのです。

 この状況で、店がやらないといけないことは、おいしい料理を出すことはもちろんですが、価値ある情報としてお店の歴史や料理の工夫などをしっかりと伝え直すことです。何代前か、何年前かはわかりませんが、このお店の創業の時の気分に戻ってしっかり価値を伝え直すことです。

 特に、最近はおいしい料理の味を知らない、味自体で判断できないお客様も増えているので、この料理は下拵えにこれだけの時間をかけて作っているとか、この味とこの味を比べてみてどちらがおいしいかなど、価値を再度マーケットに認知させる必要があるということですね。

 もちろん老舗というからには、知っている方と知らない方がいて初めて老舗というブランドが成り立つわけですから、お客様でいっぱいになった頃合いを見計らって徐々に情報を絞っていくことも大切ですが、今は「価値ある情報を伝える」時期ということですね。