僕は自分の体を「ハック」することにした

 恐ろしいことだった。デブだけでも悪いのにおまけにバカとなれば、大好きな仕事をして暮らしてはいけない。これをきっかけに僕は最新の脳撮像技術について調べ、当時はまだ賛否の分かれていた単一光子放射断層撮影(SPECT)を受けて、自分の脳が聞き分けがないわけを突き止めようとした。

 シリコンバレー・ブレインイメージング社の予約日。まずは、放射性造影剤(糖)を注射された。脳が糖を使った段階で、放射性トレーサーが脳の働きを表示する。前頭前皮質──最も新しく進化した最も高等な脳の部分──は、集中しようとしたときに、ほとんど活動が見られなかった。人生の盛りのはずの時期に、僕は健康を失うばかりか、脳の基本「ハードウェア」が故障しつつあったのだ。

 最悪なのは、なぜそんなことになっているのか皆目わからなかったことだ。だって、主治医の先生やメジャーな医療関係者から、こうしなさいと言われたことは全部きちんとやっていたのだから。

 僕は自然科学の世界に生まれ育ち、そこから自分なりの問題解決法をつくりあげてきた。祖父母はマンハッタン計画で出会っていて、祖母は、原子力科学の業績により権威ある功労賞を授与された立派な科学者だった。

 自分用のコンピュータを8歳で与えられた僕もまた、40代にしてIT経験が30年以上の数少ない一人で、大学時代にはAI(人工知能)の一分野である意思決定支援システムを専攻した。科学とテクノロジーの力は、物心つくころから人生の一部だった。だから健康とキャリアの危機に直面したとき、このパワーを、答えを見つけることに振り向けた。

 僕はインターネット草創期のイノベーター(つまりハッカー)であり、ウォートン・スクールに通学しだす前は、シリコンバレーのカリフォルニア大学の公開講座で授業をもっていた。1997〜2002年、地元のエンジニアにインターネットの扱い方を教えたのだ。

 これはつとに知られるとおり、当時はとても困難なことだった。というのもエンジニアは医療従事者と同様に、自分が扱っているシステムに関するデータについてすべてを知りたがるが、あいにくそれは無理だったから。

 インターネットは、関連のすべての部分がどうなっているかを確かめる余裕がなくても流れに任せざるをえないことが多い。この点で、人体とネットは大差がない。どちらも膨大な数のデータが見当たらなかったり、誤解されていたり、隠れていたりする複雑なシステムだ。自分の体をそんなふうに見るうちに、ふと気づいた。コンピュータのシステムやネットをハックするときと同じテクニックを使えば、自分の生態をハックできるようになるんじゃないか、と。