脳施設からチベットの奥地まで、世界のダイエットを研究

 これを大きな転機として僕は「バイオハック」を、つまり「テクノロジーを利して体の内外の環境を変え、望むとおりに動くようコントロールする技術」を追求しだしたのだ。自分の健康をモニターして、気分に、見た目に、仕事ぶりに、人間関係や全般的な幸福にも影響している、隠れた変動要素を見つけ出すのだと思うと、ぞくぞくした。

 コンピュータのハッカーは、システムをじっくりと調べ、乗っ取るのに使えそうな小さな穴を一つ見つけ出しにかかる。そしてたいていは侵入できる穴が見つかるまで、可能性のある割れ目を一つまた一つと試していく。

 バイオハックを機能させているのも同じプロセスだ。僕は自分の身体的データを測定し、自分の体で実験して周辺のトラブルシューティングを図り、パフォーマンスに何が影響しているのかを観察していった。血液検査を行ない、副腎ホルモン検査でストレスレベルを測った。結果がまとまってから、脳機能回復の薬を服用し、サプリメントを摂取し、数え切れないほどのダイエットを試して、どれが効くか、どれが効かないか、それはなぜなのかを確かめていった。

 僕はカナダの森に隠されたブレインハックの非公開施設を、アンデス山脈のスピリチュアルな営みを、チベットの人里離れた僧院を、探索していった。

 自宅のオフィスに脳電図(EEG)監視装置を設置し、心拍数変化というバイオフィードバック技法を用いる資格を得て、自分の神経系ストレス応答を制御する方法を学んだ。

 こうしたテクニックを駆使して自分の脳を熟知するにしたがい、実際口にしたものが体の生態と思考に直接影響することが明らかになった。生態しだいで頭脳と肉体のパフォーマンスも変わる。これらの装置でモニターして、頭脳のパフォーマンスをどの食品が高め、どの食品が台なしにするかを特定できた。

 これが「完全無欠(ブレットプルーフ)ダイエット」の始まりだ。さまざまな条件で実験をし、フィードバックを関連づけ、蓄積された入手可能な研究論文を読んでいくことで、減量、空腹感、エネルギーレベルに対して、炎症、毒素、ホルモン、神経伝達物質、腸内バクテリアその他の多くの要因が果たしている複雑な役割が見えてきた。

 こうした発見の多くは、世に出ない研究誌に載ったきりで広く利用されてこなかったものであり、僕自身の緻密な観察と、他のバイオハッカーに共有された観察の結果でもある。

 得られた発見は意外だったが、おかげで1日0.5キロずつ減量でき、前より元気になったうえ、パフォーマンス、回復力、集中力が驚異的にアップした。僕は体と脳にきちんとエネルギーを届ける方法を、また同じくらい重要なことに、機能を阻害するものを人生から取り除く方法を学んだのだ。

(※この原稿は書籍『シリコンバレー式自分を変える最強の食事』の「はじめに」から一部を抜粋して掲載しています)