相続や墓を考える「終活」が注目されているが、それ以前に解決しておくべき重大事が「終の棲家」の確保。マイホームがあるから安心ではないと、専門家は警告する。

 日本の持ち家率は高い。特に世帯主が65歳以上で2人以上の世帯が約80%と高いため、住宅ローンさえ完済していれば「終の棲家」問題は解決しそうに思えるが、実態は違う。次世代の住宅政策・福祉政策を議論する場として、国土交通省が設置した「安心居住政策研究会」の中間とりまとめ骨子によると、高齢者は「住まいが古くなりいたんでいる」「構造や造りが使いにくい」「台所、便所、浴室などの設備が使いにくい」という問題を抱えている。また子どもたちが巣立ったため「住宅が広すぎて管理がたいへん」という声もある。若い頃は広い家に憧れるが、高齢になれば移動距離が短くて掃除が楽な小さな家の方がありがたい。そのため高齢者世帯の約26%が住み替えや建て替え、リフォームといった方法で現在の居住環境を改善したいと考えている。住み替え先の候補はバリアフリー構造など高齢者にふさわしい設備と、万が一の事態に対応する見守りサービスを備えた「サービス付き高齢者向け住宅」(サ高住)が約30%と最も高い。

高齢者住宅は
サ高住が主流に

高齢者住宅財団
髙橋紘士理事長

1971年より社会保障研究所研究員を務め、84年に法政大学教授、97年に立教大学教授、2010年に国際医療福祉大学大学院教授などを経て現職。

 サ高住以前には高齢者専用賃貸住宅(高専賃)、高齢者向け優良賃貸住宅(高優賃)、高齢者円滑入居賃貸住宅(高円賃)が存在したが、2011年に高齢者住まい法が改正されてサ高住に一本化された。サ高住は、専用部分の床面積25平方メートル以上(共用タイプは別基準)でバリアフリー構造、専用部分に台所、水洗便所、収納設備、洗面設備、浴室を備える。ケアの専門家が、少なくとも日中は建物に常駐し、安否確認や生活相談サービスなどを提供する。入居者から礼金や権利金を受け取ることは禁止されており、周辺の賃宅住宅に比べて賃料を高く設定することも規制されている。

 高齢者住宅財団の髙橋紘士理事長は「通常は、賃貸借契約を結ぶため、法律で入居者の権利が守られており、長期入院などを理由に、事業者から一方的に解約されることはない。前払い金の対象範囲や返還ルールも整備されている点は心強い」と指摘する。

 サ高住を名乗るためには、条件を満たした上で、自治体の指定登録機関に登録しなければならない。登録情報はここで閲覧できる他、インターネット上の「サービス付き高齢者向け住宅情報提供システム」で全国の登録情報を見ることができる。事業者に対しては「建設・改修費に対する補助、新築・取得した場合の税制の優遇、住宅金融支援機構による融資といった支援制度が用意されている」(髙橋理事長)ことから、普及が進んでおり、登録戸数は15年8月末時点で18万4000戸を超えた。しかし、サ高住を終の棲家とするためには「複数の物件から慎重に選ぶ必要があります。周辺の環境や建物の良しあしだけでなく、居住者と折り合いをつけることができるか、事前の説明通りのケアサービスが提供されているかなど、ソフトの部分を見抜く眼力を養いたい」(髙橋理事長)。物件探しを子どもに任せきりにしない。親の好みをきちんと把握しているわけではないし、いろいろな思惑もあるかもしれない。子どもの立場では苦労して探した物件にけちをつけられれば面白くないだろう。やはり入居者自身が動いて決めるべきだ。多くの事例を見てきた髙橋理事長は「拙速な判断と他人の意見に従うと失敗する」とアドバイスする。