前回のレポートで予想したとおりに、米ドル安・円高の展開になってきました(「ドル/円は目先は92円まで調整しそうだが、『利上げ前の米ドル高』で98円を目指す!」を参照)。

 ただ、このきっかけについては、人民元切り上げが近づいて、同じアジア通貨である円が買われているからといった見方が少なくないようですが、私はそこにちょっとした「誤解」があると思っています。

ガイトナー訪中の「秘密ミッション」とは?

 4月8日(木)に、米国のガイトナー財務長官が急きょ中国を訪問し、これを前後して、相場は米ドル安・円高になってきました。

 実は、ガイトナー長官は昨年6月にも訪中していて、この時も訪中後に米ドル安・円高となっていました(「急浮上した『中国ショック』はドル高要因か? ドル安要因か?」を参照)。

 ただ、この時の米ドル安の理由については、米国の金利低下とされました。

 昨年6月の訪中におけるガイトナー長官の最大の任務が、今や米国債の最大の買い手となっている中国に対し、米国債購入の継続をお願いすることであったと理解されたのです。

 当時は、米国債の格下げ懸念が台頭し、価格は急落、利回りは急上昇となっていました。

イランの核問題が米中交渉の「影の主役」!? <br>人民元小幅切り上げで、円高は限定的に!

 そのような状況下で、ガイトナー長官の訪中が行われ、中国による米国債購入が続く見通しになったことから、米国債相場は反発に転じました。

 米国債の利回りは低下し、米国の金利との連動性が高い米ドルも下落に向かったのです。

多くの市場関係者が
元切り上げの効果を誤解している!?

 こんなふうに解説してみると、今回のガイトナー訪中を前後した米ドル安への転換について、人民元切り上げに伴う円買いというよりも、昨年6月のケースと似た構図によるものと考えられないでしょうか?

 昨年6月の訪中前、米国の10年債利回りは4%台をつけていましたが、今回のガイトナー訪中直前も、その時以来の4%台まで米国の10年債利回りは上昇していました。

 今回の場合も、訪中後に低下に向かい、それと連動するかたちで米ドル安となっているのです。

 そもそも、米国の金利と米ドルとの関係に注目すると、人民元切り上げは米国の金利上昇&米ドル高要因と考えるべきでしょう。

 最大の米国債の買い手である中国は、人民元高阻止のための米ドル買い介入で得た資金を米国債購入に充てています。

 人民元高を容認するということは、切り上げられた分だけ、米国債購入の「元手」が少なくなるわけですから、米国債相場の下落、利回り上昇、それに連れたかたちでの米ドル高になると考えるほうが自然でしょう。

 要するに、私の言いたいことは、「混乱」があるかもしれないということです。

 米ドル安(円高)になっている理由について、一般的には、米中間で人民元高の合意がなされたためと理解されているようですが、それならば本来は、米国の金利上昇によって米ドル高になるはずです。

 中国による米国債購入の継続で合意がなされたという材料に対して、多くの市場関係者が自覚のないままに、米国の金利が低下すると思い込み、反応している可能性があるということです。

米中交渉の「影の主役」は意外にも…

 さて、米国の金利を軸に考えると、米中間の合意が、人民元切り上げか、もしくは米国債購入の継続かのどちらかによって、米ドル相場は正反対の動きになるでしょう。

 ところが、米国の金利低下について、今回、人民元切り上げに起因する米ドル安の結果と人々に理解されていますから、ちょっとした「ねじれ」が起こっている可能性があります。

 こんなふうに、因果関係を誤解して相場が展開していくことは珍しいことではありません。たた、それは通常、長続きしないものです。

 今回の場合、最近にかけての米ドル安が、中国による米国債購入が予想外に続いていたためとすれば、米ドルは一段安になる可能性もあるでしょう。

 そうではなく、「予想どおり」に人民元が切り上げられれば、米国の金利はそれほど下がらず、米ドル安・円高は行きづまるということになるのではないでしょうか?

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