当面の経営課題

「よし、では書き出していこう。何がある?」
 それぞれが項目を書き出し、みんなの挙げた項目でホワイトボード一面が埋まった。

「なるほど……じゃあ、ちょっとまとめようか。これとこれは同じだな、うん、これも、こっちはこのラインにまとまるな、うん、これはこの流れか……」
 昌一郎はおもむろにマークを付け始めた。
「よし、こんなもんか。まとめるとこうなるな」
 昌一郎のまとめは以下のとおりになった。

 1 既存店の売上をまず戻し、伸ばし、利益を死守する
 2 社員教育の仕組み作りと店長2名の育成、それに続く社員の採用・教育
 3 今後の新規出店に対する様々な仕組み作り、立地や資金調達など出店そのものの課題

「どうだ? この3つが当面の経営課題ということでいいかな?」
 みんな納得した表情で頷いた。
「この中で最も大切なのはどれだ? 大沢君、君は店長かい?」
「はい、吉祥寺店の店長をやらせてもらっています。えっと、1番ですかね?」
「そうだ、そのとおりだ。2も3も1があって初めて必要になってくる。だからこそ、当面の課題は1ということだ。みんながそれぞれ自分なりの幸せをつかむためには1が必須条件というわけだ。頑張らないとな。で、どうやる? 具体的に考えないといけないな」
 昌一郎はニヤッと笑いながら、するどい視線をはるかに投げた。

「3については私がアドバイスするから、宇佐美君を中心にした一部のメンバーで作って行こう。毎月宿題を出して、それに対してレビューするという流れだな」
「え? 中川社長、いいんですか? お忙しいのに……」
「まあ、これも乗りかかった船だ。私の時間に合わせてもらうことになるだろうが、それでよければ私は構わんよ。継続的にアドバイスをさせてもらうから」
「ありがとうございます! 本当にすみません。みんなもお礼を言いなさい!」
「ありがとうございます!」
 全員が声を揃えて昌一郎に挨拶した。

「うん、声も揃っていていい感じだ。一丸となってやっていこうという気持ちの表れだ。で、誰がメンバーとして参加するんだ?」
「何人くらい必要ですかね? 僕としては店長以上は全員参加させたいのですが……」
 宇佐美は店長たちの表情をチラっと見ながら、同意を求めるように昌一郎に尋ねた。
「みんながオーバーワークにならなければいいんじゃないか? というより、宿題が多くて業績が上がらないという言い訳は聞きたくないからな。みんなの覚悟次第だ」

「みんなどうする? 俺と一緒にやるか?」
「もちろんです、社長。っていうか、やりたいです。やらせてください!」
 荻窪店店長の服部が真っ先に元気よく返答した。
「はい、僕もやりたいです」
 武蔵小金井店の店長である今枝、高円寺店の店長である永松が続いた。
「大沢はどうすんの?」
 木全が尋ねた。
「当たり前じゃないですか。別にそんなん聞かれなくてもやる気満々ですよ」
 大沢がニヤッと笑いながら宇佐美の顔を見た。

「では決まりだ。これで進めよう。だが本題は1と2だ。これをどうするか? ここで、はるかの登場だ。待ってましたって感じだろ、はるか?」