「新・三本の矢」を台無しにしうる
東芝の不正会計問題

藤野 今回、山本さんを対談相手に指名したのは、企業の改革が進んで持続的な高収益性と株高が実現するためにも、「正しいことを正しくやろうよ!」と声を大にして唱える人と存分に語り合いたかったからです。

山本 おおっ、「正しいことを正しく!」といきなり突いてきましたね(笑)。

藤野VS山本対談 前編<br />「企業の不正はなぜなくならないのか?」藤野 英人
レオス・キャピタルワークスCIO(最高運用責任者)。 1966年、富山県生まれ。90年早稲田大学法学部を卒業。野村投資顧問を経て、96年ジャーデン・フレミング投信・投資顧問(現JPモルガン・フレミング・アセット・マネジメント)に入社。中小型株のファンドの運用に携わり、500億円⇒2800億円にまで殖やすという抜群の運用成績を残しカリスマファンドマネジャーと謳われる。2003年8月レオス・キャピタルワークスを創業、CIO(最高運用責任者)に就任(現任)。中小型・成長株の運用経験が長く、ファンドマネジャーとして豊富なキャリアを持つ。現在、運用している「ひふみ投信」は4年連続R&I優秀ファンド賞を受賞、さらに「ひふみ投信」「ひふみプラス」を合わせたひふみマザーファンドの運用総額は600億円を超えている(2015年6月現在)。ベンチャーキャピタリストであり、自身がファウンダーでもあるウォーターダイレクトを上場させ、現取締役。また東証JPXアカデミーフェロー。明治大学商学部兼任講師。主な著書には『投資家が「お金」よりも大切にしていること』(星海社新書)、『日経平均を捨てて、この日本株を買いなさい。』『儲かる会社、つぶれる会社の法則』(ダイヤモンド社)、『スリッパの法則』(PHP)、『運用のプロが教える草食系投資』(共著:日本経済新聞出版社)、『投資バカの思考法』(ソフトバンク クリエイティブ)など多数。

藤野 逆から言えば、正しくないことは曝かれて白日の下にさらされ、世の中の評価を問われるべきだと思うわけです。こうして企業が徹底して正しいことをやり遂げられるようになれば、おのずと日経平均も上昇していくはずです。そういった観点から、企業にとって何が正しくて何が正しくないことなのか、どうやって価値改善を図っていけばいいのかについて議論をぶつけ合いたいと思っています。さらに、そもそも企業はなぜ間違えてしまうのかについても考えてみたいですね。

山本 企業は多かれ少なかれ、いろいろなジレンマを抱えているのが現実ですね。コーポレートガバナンスが大事である一方で、個々の企業にはそれぞれの“体質”というものがあります。東芝の不適切会計処理の問題にしても、あれだけ大きな企業であっても、自浄機能が作用しなかったことが露呈しました。

 そうなってくると、「投資家に公表してきたすべての決算やIR資料もウソだったのか?」と懐疑心が深まってしまう。結局のところ活気のある市場とは、コーポレートガバナンスがしっかりとしていなければ成り立ちません。

 そうでなければ、とても安心して買えない。また、投資家側も「これはおかしいのではないか?」と指摘し、その声に応じて市場側も照会できる体制も求められます。しかしながら、金融庁もがんばってはいるものの、圧倒的に市場監視に携わる人数が少なく調査力が足りないのが現実で、市場をくまなく監視して悪い企業を退出させるという静脈的なメカニズムも欠けています。

藤野 僕も東芝の事件にはすごくガッカリしましたよ。そもそも決算の数字が偽りで、そのことに対しての自浄能力もなければ、「新・三本の矢」自体が成り立たなくなってしまいますから。根本の部分がウソで塗り固められていたら「持続的に資本効率を高めること」なんて不可能で、コーポレートガバナンスコード以前のレベルの話。その一方で、機関投資家たちはスチュワードシップコードに則って東芝と正しく向き合ったのかという点も看過できません。結果的に誰も声を発することなく、株主としての権利を行使して責任を果たしてこなかったわけであって、そのことも糾弾されるべきだと思います。