創続総合研究所

父親の死で試される、残された母子の絆
~“大黒柱”が亡くなって、初めて露わになる母親の本心もある

急に芽生える疑心暗鬼

八木 そういうふうに、感情的にこじれると、相続人みんなにとって不幸なことになってしまう危険性があるのも、相続の怖いところですよね。それにしても、そのお母さんは、どうして子どもたちに対して、預金を隠そうとまでしたのでしょう?

村越 家族関係の細部までは分かりませんが、結局、子どものことを信じられなかったんじゃないでしょうか。「お金を渡してしまったら、それでサヨウナラに違いない」と。

 私の同業者にも、こんな人がいます。父親が亡くなった時に、さきほどの名義預金があったらまずいと思って、母親に「ちょっと貯金通帳を見せてほしい」と話をした。すると、彼女は、郵便局に「息子が私の貯金を狙っているから、気をつけてほしい」と電話したんですね。窓口に行ったら、なじみの局員が、どうもよそよそしい(笑)。

八木 税理士というお金のプロだから、よけいに怪しまれたのかもしれません(笑)。

村越 「そんなことを言う母親じゃなかったのに」とショックを受けていました。長年連れ添った伴侶を亡くしたとたん、子に対して、そんな疑心暗鬼が芽生えることもあるんでしょうね。

 かと思うと、夫の死で、とことん気弱になってしまうような人もいます。事業主の旦那さんをフォローして、自らも株の売買だとかをバンバンやって儲けていた奥さんがいました。ところが、夫が亡くなったら、子どもたちに「もう、この株をどうしていいか分からない」ともらしたそう。旦那さんという相談相手がいたからこそ、思い切って“切った張った”もできたんですよ。

八木 一生懸命夫を支えていたつもりが、精神的に支えられていた面も大きかった。

村越 そうですね。自分で独立して何かをやっていたような人は別にして、夫への依存度が高かった妻ほど、その死によって、まわりの世界が、今までとは違ったものになってしまう。人によっては、経験したことがないような不安に襲われるのではないかと思うんですよ。それが、子どもたちへの姿勢にも大きく影響してくるのではないでしょうか。

「近しい」からこそ大切なこと

八木 でも、世の中には、そんなふうに疑心暗鬼の塊みたいになってしまうお母さんばかりではありませんよね。

村越 もちろんです。むしろ、お父さんが亡くなった後、仲良くやっている親子のほうが多数派だと思いますよ。子どもだって、残された母親を大事にしようと考えるのが普通ですから。

八木 さきほどのような事例を聞くにつけ、母親としては、そういう子どもの気持ちをもう少し信じていいのかな、という感想は持ちます。もちろん、家族関係は千差万別で、それぞれ背負ってきたものの違いはあると思うのですが。

村越 あとは、教科書的な言い方になってしまいますが、やっぱり腹を割って話すことは大事です。さっきの同業者も、お母さんと正面から話をし、時間も掛けて誤解を解いたそうですよ。最後は、お母さんのほうも、「何だかんだ言って、この子の世話にならなければならないんだ」と認識を新たにしたようです。

八木 家族という近しい関係だからこそ、「分かっているだろう」ではなくて、きちんと話をすることが大切なんですね。

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八木美代子 [株式会社ビスカス代表取締役]

早稲田大学卒業後、リクルート入社。1995年に株式会社ビスカスを設立。税理士を無料でご紹介するビジネスモデルを日本で初めて立ち上げ、現在まで10万件以上のマッチングを実現。相続に強い税理士のみを集めたサイト「相続財産センター」を運営し、相続コーディネーターとしても業界ナンバーワンの実績を誇る。著書に『相続の現場55例』(ダイヤモンド社)、『相続、いくらかかる?』(日経BP社)、『相続は『感情のもつれ』を解決すればお金の問題もうまくいく』(サンマーク出版)などがある。
株式会社ビスカス

 


相続の現場~争いから学ぶハッピー相続術

相続の別名は、「争続」。仲の良かった兄弟姉妹が親の遺産を前に骨肉の争いを演じるというのは小説やテレビドラマの中だけの出来事ではないようです。諍いの中心はもちろん「お金」。ですが兄弟姉妹には、他人がうかがい知ることのできない「本音」「思い」があるようで……奥底にある「心の綾」を解きほぐすと争いから一転、分かりあえるのが家族。そうした「ハッピー相続」の例を解説します。

「相続の現場~争いから学ぶハッピー相続術」

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