科学技術者たちの関心も高い
ICTと社会の関係

 10月初旬、京都で開催された「STSフォーラム(科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム)」の第12回年次総会に招かれ、プレナリーセッションに登壇しました。この総会には毎年、世界各国からノーベル賞受賞者を含む科学技術者をはじめ、政治、ビジネス、メディア各界のリーダーが1000人以上集まります。

 私が登壇したセッションのテーマは「社会はICTで変わる」。その中で、世界で今、急成長している企業とその共通点を次のように紹介しました。

「Uber(ウーバー)」は世界No.1規模のタクシー会社ですが、タクシーを1台も所有していません。「Airbnb(エアービーアンドビー)」も世界No.1規模のホテル業をしていますが、自社では部屋を1つも持っていません。同様に、世界No.1規模のECサイト運営会社、アリババ・グループも在庫を1つも持たないし、世界最大のメディア会社であるフェイスブックにしても、自社製のメディアは1つもありません。

 これらのビジネスモデルに共通するもの――それは、様々な企業や消費者をつなぎ、みんながハッピーになれるプラットフォームを構築している、という点です。

 この話は、科学技術の専門家たちにとっても大変興味深かったようで、いまやICTは社会全体の大きな関心事になっていることを再確認したしだいです。

インターネットもいわば“生き物”
進化にはセキュリティが不可欠

 講演ではもう1つ、お話をしたのですが、それも注目を集めました。サイバーセキュリティと生物学や免疫学が似ているという話です。この連載の第1回でもお話したように、私は医学部卒業なので、以前からこのことに気づき、不思議に思っていたのです。

 どこが似ているのかって? では、簡単にお話しましょう。

 生物の最大のミッションは、言うまでもなく"生きること"です。そのために4億年もの間、イノベーションを繰り返し、DNAを進化させてきました。つまり、病原菌や事故などから身を守り生命を維持するために、自分自身の体の中に優れたセキュリティ機能を備えてきたということです。

 インターネットもいわば"生き物"。発展し続けるためにはセキュリティが欠かせません。そう考えると、サイバーセキュリティにおいても生物学や免疫学などから学ぶことはたくさんありそうです。次のアイデアは、業界のベンダーではなく、生物学などとのコラボレーションから生まれるのではないかと私は思っています。

 わずか8分ほどのスピーチでしたが、反響は大きく、講演後、多くの方と名刺交換をさせていただきました。こうした場をきっかけに、多様なジャンルの知識を組み合わせ、新たな価値を創造する「オープンイノベーション」が始まっていけば、素晴らしいことですね。