実例その2「何度も事故を引き起こす、お粗末社員」

 私はもともと社労士です。顧問先の労災関係の案件を処理しているとき、以前交通事故を起こした人と同じ名前が記入されていることにふと気づきました。それ以後、1人ならず2人、3人とそういう人が出てきて、事故を起こした人は繰り返す可能性が高いと確信するようになりました。

 不注意なのか、運転が荒いのか、そもそもの性格なのか原因はわかりませんが、「事故を繰り返す」社員は一定数います。

 そうなると会社として加入している自動車の保険料も高くなりますし、対物、対人で大きな損害を被る可能性もあるので大変です。

 ですから車を使用する職種(営業車に乗るなど)を募集する場合は、選考の段階で事故歴の確認を書面で取っておくことも必要だと思っています。面接では事故を起こしたことがないと答えても、嘘をついていることもありますので、口頭で確認するだけでなく「ウラ」が取れればなお安心です。

 この事故歴の確認は意外と知られていないのですが、自動車安全運転センターが発行する「運転記録証明書」を見れば簡単にわかります。費用は630円。内定を出す前の段階で、応募者に提出してもらうようにするといいでしょう。

実例その3「突然行方不明になる、無責任な社員」

 昨日まで一緒に働いていた人が、もし突然行方不明になったら……。これは犯罪がらみではなくて、無断欠勤、そして退職した人の話です。

 ある日無断で会社を休み、それが2日、3日、4日と続いて……。同僚や上司は心配になって電話をかけるのですが、いつも留守番電話のメッセージ。家を訪ねても留守で連絡がまったく取れず、どこに行ったのかわからなくなってしまう。

 こんな風に、いつもと変わりなく働いていた人が突然出勤しなくなるケースが実は少なくないのです。「うちの会社にもいたよ!」とうなずく人もいるのではないでしょうか。

 こういう場合、ほとんどのケースで本人の中では100%会社を辞めたつもりになっています。辞めることをいい出せずに無断退職。会社側は何も聞いていませんから、無断欠勤された状態。

 では、その社員の処理をどうすればいいのでしょうか。退職届がない場合、これが実に厄介なのです。辞める意思をハッキリ示した退職届があれば、手続きはスムーズに進み、何の問題もありません。しかし、本人の意思がわからず、連絡も取れない。そうなると手続きが単純にはいきません。

 たいていの場合は自己都合退職で処理するのですが、それでも問題が残ります。
 退職届を出していないため、本人が会社に戻る可能性はゼロではなく、急に姿を見せるかもしれないからです。万が一、出社したときに自分の席がなくなっていれば、その人はどんな態度に出るのか……。

 自己都合退職は、自分の意思表示で退職することですから、「自分は辞めるといった覚えはない」「勝手に退職の処理をされた」とクレームを出し、最悪の場合、損害賠償を請求してくることも想定しなければいけません。

 それならば、解雇で処理すればいいと考えるかもしれませんが、その解雇にも問題があります。解雇は会社の都合で決めますから、本人の意思は関係ありません。ただし、解雇するには社会通念上相当で、客観的に合理的な理由が必要です。このケースのように社員が行方不明になってしまうと、その理由がまた難しいのです。

 解雇する場合、労働基準法により会社側は30日前に本人に予告しなければいけないのですが、行方不明ですから伝える相手がいません。予告せずに解雇することはできますが、その場合は30日分の給料(平均賃金)を支払う義務(解雇予告手当)が生じます。予告しない分、その間の補償が義務づけられているわけです。

 こうして検証していくと、現状では、消去法で自己都合退職での処理がベストということになります。そうなると、先ほど述べた問題点や話がこじれた場合の訴訟リスクについての対策を考えなければなりません。

 こういったリスクを未然に防ぐ一番いい方法としては、雇用契約書などにあらかじめ「無断欠勤が××日間続いた場合は自己都合退職とみなす」といった文言を入れておくことです。そうすれば万が一、訴訟になっても会社が一方的に不利になることもないでしょう。

 これは私の経験ですが、医療や介護関係の仕事は人材の流動が激しいので、行方不明になる人が結構います。会社側は対処法を準備しておくとともに、こうしたことを未然に防ぐ社内の環境作りにも注力しておきたいところです。

 ほかにも自立心がなく親離れできない社員、上司をうつ病にさせてしまう逆パワハラ社員など、問題社員はどこの会社にも潜んでいます。こういった社員も、採用時に判断ができれば、のちのち苦労が少なくてすみます。