現在、JAXA宇宙飛行士の油井亀美也氏が、第44次/第45次クルーとして国際宇宙ステーションに長期滞在中である。元自衛隊パイロットという異色の経歴の油井氏は、初めてのフライトで何を思うのか。彼の想いやメッセージをリアルタイムで地上に届けるため、軌道上から特別に寄稿をいただいた。油井氏によるレポートは全2回。

先輩飛行士の言葉が初フライトの不安を解消

 みなさん、こんにちは。JAXA宇宙飛行士の油井亀美也です。

 現在、国際宇宙ステーション(ISS)において約5ヵ月間の長滞在中で、すでに3ヵ月近くが過ぎました。今回は、チームとしての能力を最大限に発揮するうえでのキーポイントの一つである、コミュニケーションについてお話ししたいと思います。

 宇宙開発の分野では、非常に多くの人たちが協力して仕事をしています。それは各国共通です。宇宙飛行士の仕事ばかりが目立つことが多いですが、我々もそのチームの一部であり、他の仲間となんら変わるところはありません。ただ、宇宙飛行士が感じるチームワークの組み立ての難しさは、閉鎖環境で仕事も生活もともにするクルー間のコミュニケーション、および遠隔に位置しているため直接顔を合わせることができない地上とのコミュニケーションにあると感じます。

宇宙飛行士にとってのコミュニケーション技術とは?ゲナディ・パダルカ宇宙飛行士(前方中央)からスコット・ケリー宇宙飛行士(前方左)への指揮権移譲式の様子。後方右が油井亀美也宇宙飛行士
提供:JAXA/NASA 拡大画像表示

 たとえば、私の大先輩でもあり目標でもある若田光一宇宙飛行士は、コミュニケーションの取り方が非常に上手いですし、また現在ISSのコマンダーであるNASAのスコット・ケリー宇宙飛行士も、仲間とのコミュニケーションをとても大切にする飛行士です。今回は特に、ケリー飛行士の行動から見るコミュニケーション技術や、私自身が筑波の管制チームとの間で実施しているコミュニケーション上の着意事項などについてお話ししたいと思います。

「何かわからないこと、困ったことがあれば何でも聞いてくれ。最初のうちは、同じような質問をしてしまうこともあるかもしれないが、気にせずにいつでも言ってほしい。また、失敗することもあるかもしれないが、それも新人には良くあることだから、言ってくれれば助けるよ!もちろん、深夜に起こしてもらってもかまわない」

 私がISSに到着したばかりの頃、ケリー飛行士が最初に言った言葉です。この言葉を聞いて、初めての飛行における私の不安は大きく解消されました。そして、ケリー飛行士は最初に彼が話してくれたとおり、どんなに忙しくても、深夜でも私の質問に答えてくれましたし、新人飛行士が犯しそうな過ちについては先回りして注意喚起をするなど、きわめて効率的に私の教育にあたってくれました。

 最初の言葉とその後仕事に慣れるまでの約1週間で、私自身、ケリー飛行士を本当に頼りにして心から信頼しているのを感じました。チームをまとめる彼の立場からすると、新人を安心させると同時に、新人に対して効率の良い教育を行なうことでミスを未然に防ぎ、リーダーにとって部下が連絡・相談をしやすい環境をつくるよう努めていたと感じます。

 リーダーのみなさんにとって、チームの能力を向上させるために実施する部下の教育も、責任の一部ですね。普段から、部下が失敗したりした際、勇気を出して報告に来た部下への対応にも注意が必要です。部下が失敗を速やかに報告するのは時に勇気のいることでしょう。速やかな報告によって上司は現状を把握し、部下とは違った幅広い視点で対策を考える事ができるので、部下が悪い報告したのは非常に良いことなのです。悪いニュースが自分に入るように日頃から信頼関係を築いておくことは、ビジネスの世界でも重要なことではないでしょうか。